競争戦略に生成AIが向かない理由
生成AIは知的生産の供給を大幅に効率化する一方で、需要の喚起には不向きな面がある。この問題について、楠木氏は自身の専門である競争戦略の観点から見解を述べた。
「以前、ある月刊誌の企画で太平洋戦争における日本の失敗を議論する歴史家や研究者の座談会に参加したのですが、その際に生成AIに『なぜ太平洋戦争の終結が遅れてしまったのか』と尋ねてみました。いくつか質問を重ねていくうちに、それらしい回答には辿り着きますが、その回答を僕がそのまま座談会で話したとしたら、間違いなく学者生命に終止符を打っていたことでしょう。あまりに凡庸で、プロ同士の議論の場では話にならない。これは卑近な例ですが、論理は同じです。平均的でありきたりな製品やサービスは差別化ができず、競争のなかで独自の価値を打ち出すのは難しい」(楠木氏)

楠木氏は「競争戦略の最大の敵は平均回帰」と述べる。平均回帰とは、統計学上の概念でデータが極端な値に振れたのち平均値に戻る現象を指す。他社との差別化によりポジションを確立し、競争を勝ち抜かなければいけない環境において、平均的な戦略では勝負にならない。楠木氏は、「ある特定の戦略や方針が決定した後のアクションのフェーズには生成AIが極めて有効」とする一方で、差別化を行いづらい点は十分に留意すべきだとした。