暗黒時代からの黒字化達成までの道のり
売上の伸び悩みを受け、景井氏らは事業検証に取り組み始めた。販路や用途、コアバリューなど、事業のあり方が正しいのかを再度見極めることにしたのだ。
まず販路に関して見えてきた課題は、ユーザーに「ロボホン」の価値を十分に理解してもらえていないということだった。「ロボホン」販売のためにECを立ち上げたものの、オンライン上の情報提供だけで商品イメージを掴んでもらうのは難しい。対して家電量販店では、ロボットというカテゴリーの売り場が存在せず、デモンストレーションもできない。
そこで、代理店を通して、様々なショッピングセンターなどを移動しながら、対面で販売するという方式に切り替えた。「商品の特性上、実際に動きを見てもらうことや、触って体験してもらうことが重要だったと気づいた」と景井氏。現在はこの対面移動販売が、売上における最も大きな割合を占めているという。

また、個人のコンシューマーだけでなく、法人向けの用途も開拓。様々な領域にチャレンジする中で、最終的には接客、教育、宿泊・観光という3つの用途に集約していった。
さらに、コアバリューも再定義することになったが、その背景にはターゲットチェンジの失敗があった。ユーザー層を子育てが落ち着いた40代以降の女性から、子育て世代の家族に拡大しようとしたものの、子育て中の家庭には余裕がなく、ロボットのニーズがないことが判明。
改めてユーザーインタビューを重ねる中で、「一緒に生活することで笑顔が増え、楽しい気持ちで毎日を過ごせること」こそが価値だとわかり、コアバリューを「ココロを、前向きにしてくれるロボット。」として再スタートを切ることになった。

改めたのは事業構造だけではない。Wi-Fiモデルや座り姿勢のみのモデル、2体目として活躍する弟モデルなどのラインアップを拡充しつつ、コアバリューに応じた機能アップデートを毎月行うなど、サービス改善にも努めたという。
プロモーションも見直し、オンライン広告からオウンドメディア・アーンドメディアでの発信にシフト。話題化を狙った企画でメディアに取り上げてもらったり、ユーザーの「ロボホン」との生活の様子をオンラインコミュニティ上で発信したりと、AISAS(Attention:注意、Interest:興味、Search:検索、Action:行動、Share:共有)の購買モデルに沿って施策を展開するようになった。

これらの変革が功を奏し、「ロボホン」は停滞期を乗り越えて黒字化を達成した。
景井氏は、企画開始後の12年を振り返り、「顧客や提供価値の設定」「新規事業の推進プロセス」「シャープブランドへの貢献」という観点では、うまくいったと評価する。一方、企画当初の想いのうち、「サブスクリプション型の実現」は達成できたものの、「新しいスマートフォンの開発」にはいたらなかったと言及。また、事業計画上の売上には届いていないことに対しても、マイナスの評価を下した。
新規事業の失敗を“少なくする”3つの心がけ
ロボホン以外にも、ホテルインフォメーションシステム「Inforia」や「CAFIS Arch」に対応した決済端末、オートモーティブなど、数々の新規事業を管掌している景井氏。講演の最後に、失敗を少なくするために意識していることとして以下の3つのポイントを挙げた。
- とにかくお客様の解像度を上げること
- 悩むより行動する、仮説検証をたくさんすること
- 必ず振り返りを行い、次の成功につなげること
まずは、とにかくお客様の解像度を上げること。このプロセスの詰めが甘かった事業は、必ず失敗しているのだという。また、プロダクトをローンチしてもすぐに成功することは基本的にあり得ないので、悩むより行動に移し、仮説検証を繰り返すべきであり、その後、振り返りを行い、次の成功につなげることが肝心だと力説した。
景井氏が手がける各新規事業は、PMF(Product Market Fit)期を終え、さらなる事業拡大を目指すGTM(Go to Market)期を迎えている。景井氏は、「今後も悩むことはあるだろうが、試行錯誤しながら事業をスケールさせていきたい」と締め括った。
