全社変革の鍵を握る「デジタルツインエンタープライズ」とは
アクセンチュアが提唱するAIによる全社変革のビジョンは、「デジタルツインエンタープライズの実現」というコンセプトに集約される。これは、企業活動を「AIエージェントを活用した社内オペレーション実行」「AIとの対話を通じた事業経営・意思決定」「市場・顧客のデジタルツイン化」という3つの領域に分け、それぞれをAIによって高度化し、連携させる構想である。現場の定型業務から経営層の戦略策定に至るまで、あらゆる活動がAIとの協働にシフトし、さらにはAIで再現された仮想市場や仮想顧客と対話しながらビジネスを進める。

1つ目の「社内オペレーション実行」では、既にAIエージェントが大きな成果を上げている。アクセンチュア自身、世界中で請け負うBPO業務の多くをAIエージェントに置き換える取り組みを推進中だ。たとえば、請求支払プロセスでは22種類の専門エージェント群が連携することで、人間が担っていた業務の約7割に相当する生産性向上を実現しているという。単一のタスクを自動化するだけでなく、複数のエージェントが連携して複雑な業務プロセス全体を担う時代が到来しているのだ。
AI-CxOたちとの対話で意思決定を加速させる
会見で特に重点が置かれたのが、2つ目の「AIとの対話を通じた事業経営・意思決定」だ。それを具現化する拠点として、アクセンチュアは2024年11月に「アクセンチュア・アドバンストAIセンター京都」を開設。保科氏は、この施設を「経営者がAIと対話し、AIを使いながら経営の意思決定や戦略策定をシミュレーションしていただく施設」と位置づける。ここでは、企業のCxOのデジタルツインである「AI-CxO」を生成し、経営者がAIと直接ディスカッションを行うといった先進的な取り組みが行われている。

保科氏は、ある企業の役員が参加した際の興味深いエピソードを披露した。まず人間だけで経営課題について議論して結論を出してもらった後、同じテーマでAI-CxOたちと議論させたところ、細かな違いはあれど、ほぼ同じ結論に至ったという。これを見た社長は「これからはAIと先にディスカッションした方が効率的だ」と述べたそうだ。

また、このAI-CxOはあえて忖度をしないように設計されており、経営者に対して耳の痛い指摘も行う。保科氏は、「人間の役員に言われると腹が立つが、AIに言われると感情抜きで聞けるため、受け入れやすい」という経営者の声を紹介し、AIが客観的な壁打ち相手として機能するという価値を示した。
この京都の拠点は、経営者向けとしては世界初の施設であり、日本企業のトップダウンでの変革を促したいという保科氏の想いが設立の背景にある。「現場で個別のAIプロジェクトが1,000個立ち上がってもバラバラでは意味がない。経営者がAIを体感し、会社全体の変革の姿を描くことが必要だ」と、その狙いを語った。
