飲食業界のビジネス環境
創業40周年を迎えるトリドールホールディングス。創業社長の粟田貴也氏は冒頭、飲食業界を取り巻く環境について説明する。

コロナ禍を乗り越えた先に待ちかまえていたのは物価高だった。人口減少にともなう働き手不足の影響も小さくない。飲食業界の多くの企業が省人化や機械化に向かう中、同社はこの流れに逆行。「手間暇を惜しまないオペレーション」をはじめ、人にしか生み出せない食の感動体験を提供するという。この姿勢を落とし込んだ独自の経営手法が心的資本経営だ。
心的資本経営とは?
人が持つ知識やスキル、経験を資本と考え、中長期的な企業価値の向上を目指す人的資本経営とは異なり、人の意欲や積極性、充実を資本と考え、本質的で永続的な企業成長を目指す在り方が心的資本経営である。
「心的資本経営で重視されるのは『従業員の心=ハピネス』と『顧客の心=感動』です。その二つを最優先に考えながら経営していきます」(粟田氏)
着想源
粟田氏は、米国の巨大企業ベスト・バイの成功を著した『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』(英治出版)を読んで感銘を受け、心的資本経営を着想したという。
「従業員のエンゲージメントを高めた結果、ベスト・バイの業績はV字回復しました。従業員の提供する感動体験が多くの顧客を生みし、大きな需要を創造します。私はこの本を読んで、人の力を強く実感したのです」(粟田氏)
実践モデル
心的資本経営を実践するためのモデルとして、粟田氏は「ハピカン繁盛サイクル」を紹介。「ハピ」は従業員のハッピーを、「カン」は顧客の感動を意味するそうだ。

「従業員が幸せになって働くモチベーションが上がると、弊社が最も大切にしている『食の感動』を彼らが自発的に提供してくれるようになります。食の感動体験を受け取ったお客様のロイヤルティが高まれば、店が繁盛して従業員の幸せに還元されます。心的資本経営では、このサイクルがよどみなく回ることを目指します」(粟田氏)
成果
約一年前から心的資本経営を実践している同社。多くの店舗で思想を啓蒙し続けた結果、離職率は前年比-12.9%に減少。2025年3月期の連結業績では、過去最高の売上収益となる2,682億円を記録した。