コンテンツの充実を図ってデータという資産を蓄積する
秋田:Artspiraは「Art」と「Inspiration」を掛け合わせた造語です。無償版とサブスクリプション型の有償版があり、刺繍やカッティング、プリンティングを楽しむための様々なコンテンツを用意しています。本日は刺繍コンテンツに対象を絞ってお話ししますが、有償版では7,000以上もの刺繍デザインを提供しています。アプリと当社の刺繍ミシンを接続すると、気に入ったデザインで刺繍をすることが可能です。お好きな画像を刺繍デザインに変換する機能や、クラウドストレージに刺繍デザインを保存する機能なども搭載しています。

秋田:現在は3ヵ月に1回のペースでArtspiraの大幅なアップデートを実施しています。細かいアップデートは月に1回くらいです。家庭用ミシンの企画から開発までのサイクルに比べると、Artspiraの開発サイクルは格段に速いため、スピーディーな更新サイクルに一生懸命食らいついているところです。
──Artspiraにおいて工夫しているポイントを教えてください。
秋田:お客様がアクセスして「楽しい」「作りたい」と思えるようなコンテンツの提供に注力しています。最近「アーティスト・コンテンツ」という新たな取り組みを開始しました。これまでArtspiraでは当社が用意した刺繍デザインを提供していましたが、アーティスト・コンテンツでは参加アーティストが自身の刺繍デザインをお客様に公開し、収益を得ることができるのです。
このようにしてコンテンツを拡充し、Artspiraを魅力的なアプリにすることで多くのお客様を集め、利用を促すことで蓄積されたデータが我々の資産になると考えています。
──具体的にどのようなデータを収集しているのでしょうか?
秋田:どんな場所でどんな製品を買い、どんな生活を送っているのか。基本的な情報に加えて、クラフトの腕前や「キルト」「ホームデコ」など、製品を使う理由や好みに関するデータも収集しています。たとえば「お客様がどんなデザインを好んで縫っているか」がわかれば、そのお客様に合う新たなデザインをこちらから提案できますよね。また、小さなお子さんがいるご家庭だとわかれば、幼稚園用グッズの作り方や縫い方などを提案することも可能です。
老舗企業の新たなチャレンジに伴走した立役者
──ブラザー工業の変革パートナーとして、電通デジタルはどのような支援を行ったのでしょうか?
清水:元々ブラザー工業様の中でアプリ開発の構想がありました。具体化するにあたり「何をコア機能とするか」「どのような体験を届けるか」「サービスモデルをどう描くか」「どのような事業展開が見込めるか」など、プランニングのお手伝いをさせていただいたのが2020年です。
清水:その後「狙う価値のあるマーケットを形成できるのか」を明確にするため、市場分析を行いました。サービスの成長性を可視化し、2021年3月の社内プレゼンを経て事業化に向かった流れです。
最初は秋田さんをはじめとするブラザー工業の皆さんと、目線を合わせるための作業を行いました。KBF(Key Buying Factor:購買決定要因)や、すぐに狙えるマーケットサイズなどを議論した後、対象顧客のペルソナを5種に分類し、MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)としてリリースして需要性を測ることにしました。
ほかにも、Artspiraにおけるコンテンツの供給スキームや運用オペレーションの整備、マーケティング、各販社との合意形成なども当社がサポートさせていただきました。
