「ローリング予測」はなぜ必要か。事業価値を高めるPDCAサイクル
栗原:「ローリング予測」が事業価値の向上にどう接続されるのか、詳しく伺いたいです。
石橋:従来の年度予算は1年間固定ですが、市場環境は刻々と変わります。ローリング予測とは、一定期間(例:12~18カ月間)の業績予測を、固定的な予算サイクルと関係なく、定期的(例:毎月)に更新する手法です。年度予算目標達成の手段ではありません。ローリング予測を先に作り、年度予算はローリング予測のアウトプットを基にトップダウンで効率的に作成します。
栗原:日本企業の「着地見込み予測」とは違うのでしょうか。
池側:違うんですよ。日本で「ローリング」と呼ばれるものの多くは、単なる「年度末までの着地点予測」です。例えば1月に残り2カ月の予測をしても、打てる手はほとんどありません。
石橋:そこが決定的な違いです。「年度予算」と「ローリング予測」は役割が明確に違います。
「年度予算」は固定された業績目標で、多くは報酬と結び付きます。一方、「ローリング予測」は常に未来を見続け、予測と目標(予算)のギャップを早期発見し、「今から何をすべきか?」というアクションを議論するものです。
重要なのは、ローリング予測は達成可能性を正直に評価するもので、報酬と結びつけるべきではない点です。これが混同されると、予測が「希望的観測」になり機能しません。
栗原:年度予算目標達成のためでなく、経営資源の再配分といったアクションのための予測なのですね。
石橋:『FP&Aハンドブック』では「実行予算(Continuous Budget)」という概念も紹介しています。これは「四半期ごとに向こう2半期について作成するローリング予測」です。研究開発費や広告宣伝費などの経営資源を継続的に再配分するためのものです。
このように、ローリング予測をPDCAサイクルに組み込み、継続的に経営資源を再配分し、アクションを起こしつづけることが、企業価値の向上につながります。
