CIOの設置がイノベーション経営実践の第一歩
林:ここからは具体的な実装論について伺います。日本企業がイノベーション経営を実現するために、まず何から手をつけるべきでしょうか。
麻生:まずやるべきは、分断された活動を「つなげる」ことです。多くの企業で、CVC、オープンイノベーション、新規事業、M&Aが全部バラバラの部署・役員で管轄されています。 CVCはM&Aのためにあるべきだし、オープンイノベーションは新規事業を創るための手段ですよね。これが連携していないのは致命的です。
私の提案は、「チーフ・イノベーション・オフィサー(CIO)」という役職を定義して、これらを全部統合した一部門として運営することです。
入山:麻生さんに大賛成ですが、もう一段踏み込んで言うなら、私は「CEOが全部やるべき」だとも思っています。
ビズリーチ創業者の南壮一郎さんに言われてハッとしたのですが、「社長の仕事は赤字を出すこと」です。社長以外が赤字部門を担当すると、社内から「あいつのところは結果が出ていない」と叩かれます。しかし社長なら文句を言われない。だから、既存事業のオペレーションはCOOに任せて、CEO自身がCIOを兼ねて、ひたすら未来への投資と赤字を掘る仕事を管轄する。これが理想形かもしれません。
麻生:私もCIOは「イノベーション領域のCOO」という定義をしていて、意思決定機関である「イノベーションボード」の議長は必ずCEOがやるべきだと本に書きました。CEOにケツを持たせて、実務はCIOが回す形ですね。

スタートアップM&Aによる経営の新陳代謝が日本企業を強くする
林:最後に、これからの日本企業のイノベーション経営において、何が鍵になるとお考えですか。
入山:僕は「スタートアップM&A」にものすごく期待しています。
米国では大企業のイノベーションの9割がM&Aです。日本企業も、技術や事業を買うだけでなく、「人」を買うという発想を持つべきです。いわゆる「アクハイアリング(人材獲得のための買収)」ですね。スタートアップで修羅場をくぐり、M&Aまで漕ぎ着けた経営者は、大企業のサラリーマン役員よりよっぽどまともな経営能力を持っています。
麻生:確かに、自分でリスクを取って全体を見てきた経験値は貴重です。
入山:そういう人たちが大企業の経営層に入り込んでいく。そしてロックアップが明けたら辞めて、また次の起業をする。メルカリの山田進太郎さんのような「連続起業家」がどんどん生まれてくるエコシステムが必要です。大企業がスタートアップを買い、野性味ある人材を取り込み、経営の新陳代謝を起こす。これができるようになると、日本企業はもう一段強くなると思います。
麻生:今日、入山先生と対談させていただいて、本当に「目が開いた」思いです。今回の本で、新規事業を経営インパクトまで高めるための「手法」は描ききったつもりでした。しかし、実行するにあたって何が壁になるのか、自分でも言語化しきれていなかった最後のピースが埋まりました。それは「社外取締役」と「任期」ですね。ここが変わらないと、システムが回らない。
入山:形だけの社外取締役を増やすのではなく、本質的なガバナンスと応援ができる人材を育てる。それを社外だけでなく、社内の取締役にもインプットしていく。それができれば、日本の経営は必ず変わると思います。
