スターバックスとコストコに学ぶ、顧客の声を体験に転換する仕組み
新しいキャンペーンを出した3日後、コールセンターに電話が鳴りやまず、同じ質問が続きパンク状態に陥った。キャンペーンの一文が解釈を分け、混乱した顧客が次々に問い合わせてきた。急いで直したいのに、見積もりと稟議と構築で改善の反映は数ヵ月先。ようやく修正が出る頃には、波はもう収まっている。
このような経験はないでしょうか。
問題は、顧客の声が会議で止まり、現場の体験に返ってこないことです。大切なのは、声をどれだけ早く体験に変えられるかです。
Starbucksは、この速さを現場から作っています。「Siren Craft System」で店内の滞留をまず見える化し、画面(Digital Production Manager)に待ち時間・列の伸び・詰まりの兆候を映し出します。ピーク時は「Peak Play Caller」という担当者がそれを見ながら、前倒しで手当てします。
そこから先は人の運用改善です。店内での検証で「味を落とさず数秒短縮できる」とわかったため、抽出手順を「エスプレッソを先に落としてミルクを温める」順に入れ替えます。あわせてモバイルオーダーの受け渡し導線を短くする、混雑時の立ち位置や役割を明確にするといった小さな変更を積み重ねます。こうした蓄積が体験を確かに変えていくのです。
Costcoは、店舗のレイアウトを速く直せるように設計しています。各倉庫の品揃えは約4,000SKU(Stock Keeping Unit、在庫管理の最小単位)未満で、一般的なスーパーマーケットが数万SKUを扱うのとは対照的です。会員カードの購入・返品の履歴は商品IDとひと続きで追えるため、売れ行きの鈍りや違和感をすぐ把握できます。物流は中継拠点で店別の必要量にまとめ、荷はパレットのまま店舗へ送られます。売り場では箱をばらさず所定の位置に置くだけなので、前の週に見つけた改善点を次の週の棚にすぐ反映できます。たとえば、置き場所を一段上げる、パレットの山を浅くして取りやすくする、容量や価格で誤解が出るならPOPの言い回しを変える、といった具合です。
こうした改善の基になる顧客の声は一つではありません。原則100%の満足保証があるため、合わない商品は迷わず戻せます。その返品の動き自体が次の判断材料になります。店内サンプリングは、商品説明やプロモーションイベントの企画・実施を専門とする外部ベンダーのCDS(Club Demonstration Services)が実施し、イベント後のインサイトやスコアカードまで提供されます。そこでの反応を見て、再度の試食や陳列の調整を小さく回していく。地道な改善の積み上げが、次の来店の体験を変えていくのです。
「次も選ばれる」高速改善を実現する3つのポイント
両社に共通する点は3つあります。
まず、効き目の大きい場所を先に決めておくこと。画面なら初期表示と並び順、売り場なら棚の位置・在庫の山・表示、店舗運用なら店内導線と仕込み量のように、効く場所をあらかじめ固定します。
次に、その効く場所に直結する声を狙って集め、毎週同じ物差しで見ること。返品理由、試食後の購入率、価格確認や取り消しの件数、レビューの語り口などです。
最後に、直しやすさを前提に設計しておくこと。パレット一枚で入れ替えられる陳列、すぐ差し替えられる掲示文言、現場で判断して動ける権限。ここまでがそろってはじめて、声が翌週の改善に変わり、その積み上げが体験を更新していくのです。
小さな改善を積み重ねることで、体験は確かに良くなります。ただ、いくら改善のサイクルを速めても、それだけでは「次もこのブランドを選びたい」という気持ちにはつながりません。重要なのは、購入の瞬間で関係を終わらせず、その後の時間にも価値を重ねていくことです。
