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次世代の経営者に向けた「新・リベラルアーツ論」──単なる知識はAIに任せ、見極め/問う力を養うには?

パネリスト:日本たばこ産業 岩井睦雄氏、タイミー 小川嶺氏、日本IBM 井上裕美氏

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AI時代に「問われる力」、明日から教養を磨く「3つの行動」

 次のテーマは、AIが急速に普及する現代において、リベラルアーツの価値はどう変わるのか、そして読者は明日からどう行動すべきか(How)という問いとなった。AIの台頭は、リベラルアーツの重要性を一層高めていると三者は口をそろえる。

 岩井氏は、「AIが圧倒的な知識量を持つ以上、人間が知識をひけらかす時代は終わる」と断言。重要なのは、AIに「使われる」のではなく「使う」側になることだ。

「そのためには、AIの回答をうのみにせず、適切に疑い、自分の頭で考え、AIに対して『こういうことは考えられないのか?』と“問う力”が、これからの本物の教養になる」(JT・岩井睦雄氏)

 井上氏も、具体的なAIのバイアスの例を挙げて同調する。

「私がAIに『会社のランチミーティングの画像を作って』と指示すると、ネクタイをした男性だけの画像が出てくることがありました。これは、AIが現代の職場環境の現状をまだつかめていない、いわば“教養”を持っておらず、バイアスがある証拠ともいえます」(日本IBM 井上裕美氏)

 AIは便利なツールだが、その回答が100%ではないことを知り、「AIとはこういうものだ」と見極められる力こそが、リーダーに必要な教養だと井上氏は指摘した。

 さらに小川氏は、現在注目が集まる「フィジカルAI」(現実世界の物理環境と直接相互作用するAIシステム)が浸透する時代のリーダーの役割について、より踏み込んだ見解を述べる。タイミーでも派遣実績の多い「物流倉庫のピッキング作業」も、7~10年後には代替される可能性があるという。

 「Excel関数を極めるような、AIに代替されるスキルに旗を立てても意味がない。これからのリーダーの役割は、半導体のように『残る産業』は何かを(教養をもって)分析し、そこに旗を立て、人々が興味を持って労働移動できるような“きっかけ”を作ることだ」と、労働インフラを担う経営者としての視座を示した。

読者への示唆:明日から「教養」をどう磨くか?

 では、明日から何をすべきか。セッションの最後に示された3つの「How」は、驚くほどシンプルであった。

1:ウェルビーイングを自問し、「好奇心」を持つ

 日本IBMの 井上氏は、リベラルアーツは義務として学ぶものではないとし、まずは自分が「より良く生きる(ウェルビーイング)」ために何に重きを置きたいのかを自問し、そこから生まれる純粋な好奇心に従うことが第一歩だとまとめた。

2:まず体験し、行動する

 タイミーの小川氏は、「言葉の重みは体験から生まれる。私は地方創生に興味を持ち、まず札幌に住んでみました。皆さんもまずタイミーで働いてみてほしい」と述べた。居酒屋で「ビールが出るのが遅い」と文句を言う前に、一度ビールの提供側を体験すれば、見える世界が変わる。

3:「人・旅・本」で越境する

 JTの岩井氏はライフネット生命創業者の出口治明氏の言葉を引用し、「会社の中の同質的な思考から脱することが重要」と語る。

「全く違う世界の人に会い、旅をし、本を読む。自分の興味から入れば、いつかそれらがつながり(Connecting the dots)、新しい事業の種になる」(JT・岩井睦雄氏)

 リベラルアーツとは、難解な古典や哲学書を読破することだけを指すのではない。それは、予測不能な時代に倫理的な意思決定を行い、パーパスで組織を導き、AIを使いこなすための「リーダーの軸」そのものである。そして、その軸を磨く方法は、自らの「好奇心」に基づき、日常から一歩踏み出し「体験」し、「越境」することから始まる。本セッションは、全てのビジネスリーダーにそう強く示唆するものだった。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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