立ちはだかる「抵抗勢力」に「変革リーダー」はどう対峙するのか
栗原:FP&Aの導入にあたっては、社内の抵抗も予想されます。どのような「抵抗勢力」が現れるのでしょうか。
池側:日本企業がFP&A導入をする際、二つの「抵抗勢力」が存在します。
一つは「現状維持を望む経理部員」です。決算を正確に締めることを至上の価値としてきた方々にとって、不確定な未来の数値を扱い、事業部と議論をするFP&Aの業務は「向いていない仕事」かもしれません。今までやってきた仕事のやり方を否定されるようで、なかなか前向きになれない方も実際にいらっしゃいます。
もう一つは、「権限、人と数字を握っている事業部」です。日本企業では、事業部門長の部下の事業企画、事業推進、事業管理などの部門が様々な管理業務を行っています。その中から計数管理をしている人たちを切り出して、FP&AとしてCFO部門や本社経営管理部門に異動させることに成功した企業があります。
事業部門長からすると、部下を奪われ、手のうちを本社に見られてしまうという懸念があるようです。この場合、「全社視点を持つファイナンスの専門家が自分のそばにいるメリット」を事業部門長に理解してもらえるまで、継続的に説得する必要があります。CFOやFP&Aの存在は、自身の部門や事業部長そのものの強力な武器となり、FP&Aを通じて本社と接続することで事業部門での意思決定の質が良くなります。
栗原:そうした抵抗を乗り越えてFP&Aの導入をリードするのは、どのような人材なのでしょうか。
池側:社長やCFOによるトップダウンでの導入もありますが、実は「海外駐在経験があったり、社外での学びに熱心だったりする本部長・部長(ミドル層)」がキーパーソンになることが多いです。このキーパーソンたちは海外現地法人で、FP&Aが機能し、意思決定を支えている光景を見てきました。帰任した際、「なぜ本社は意思決定が遅いのか」「なぜ事業部門の数字が見えないのか」と驚き、変革のリーダーとなるのです。
栗原:ミドル層が現場感を持って動き出すのが、成功の鍵となるのですね。
組織を変える「ファーストペンギン」になれ
栗原:FP&Aを目指す方や自社の経営管理を変革したいと考えている変革リーダーへのメッセージをお願いします。
池側:「うちの会社はFP&Aが整っていないから転職したい」という相談をよく受けますが、完成されたFP&Aが存在する日本企業はまだありません。多くの企業が変革と進化の途上なのです。だからこそ、今の会社を辞めるのではなく、自らがその会社でFP&Aを立ち上げる「ファーストペンギン」になってほしい。欧米のやり方が全て正しいわけではありません。日本の経営手法や組織文化を理解した上で、新しい仕組みを実装できる人材の市場価値は、今後極めて高くなります。
栗原:「日本版FP&A」は、欧米流の単なるコピーではなく、日本企業の強みを生かしながら、合理的な経営管理へと進化するプロセスそのものだと言えそうですね。
池側:そのとおりです。ある企業では「MBO:Management Buyout(経営陣による買収)」で非上場化した後、ファンド主導で急速にFP&A体制を構築することになったそうです。資本の論理が働けばやらざるを得ない状況はすぐそこに来ています。どうせやるなら、外圧でやらされるのではなく、自分たちで主導権を握り、その変革を楽しむこと。これからの経理財務や経営企画パーソンにとって、FP&Aは一番面白いキャリアではないでしょうか。
栗原:本連載を通じて、その具体的な実践知を共有していければと思います。ありがとうございました。

■石橋善一郎氏との対談・前編
■石橋善一郎氏との対談・後編
