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AI時代の「働き方の未来」

「AI脅威論」を超越するキャリア戦略──リクルートGの特任研究員が語る、生成AIによる労働市場の変容

ゲスト:株式会社インディードリクルートパートナーズ 特任研究員 高田悠矢氏

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 ChatGPTをはじめとする生成AI(Generative AI)の劇的な進化は、かつてないスピードで世界の労働市場に影響を及ぼし始めている。2024年、国際通貨基金(IMF)がこの変化を「津波(tsunami)」と表現し、先進国の雇用の潜在的な脅威を警告した。特にAI導入が先行する米国では、若年層(ジュニア層)の失業率上昇という形で、その脅威が理論から現実へと移行しつつある。一方、AI導入と学習意欲が国際的に遅れる日本は、この変容に対してどのような課題を抱え、どう向き合うべきなのか。リクルートグループの特任研究員であり、労働市場とデータサイエンスの分野で実績を持つ高田悠矢氏に、最新のエビデンスと技術的なブレイクスルーをもとに、AI時代における労働と雇用の「現在地」と、個人・組織がとるべき「生き残りの道筋」について深く迫った。

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AI脅威論の現在地:予測シナリオが10~20年短縮化

Biz/Zine編集部・栗原(以下、栗原):IMF専務理事がAIの影響を「津波」と表現し、先進国の雇用の60%に影響するといった、理論上の脅威が語られています[1]。このAI脅威論の現在地をどのように見ていますか?

高田悠矢氏(以下、高田):AIによる雇用代替の議論は、「潜在的な理論上の可能性」から「実体経済での現実的な影響」へとフェーズが移行しています。

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株式会社インディードリクルートパートナーズ 特任研究員/Re Data Science 株式会社 代表取締役社長 高田 悠矢(たかだ・ゆうや)氏
2010年に日本銀行に入行後、2015年に株式会社リクルートに入社。2021年Re Data Science 株式会社を創業。2018年より総務省統計改革実行推進室 研究協力者、2021年より株式会社リクルート(2025年より株式会社Indeed Recruit Partnersに社名変更)特任研究員、2021年より東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻 和泉研究室所属。労働市場、AI、データサイエンスに関する政府・国際機関での主要な執筆物も多数。

 まず「理論上の可能性」についてですが、2024年5月にIMFの専務理事が「AIが津波のように世界の労働市場を襲っている」「今後2年間で先進国の雇用の60%に影響を与える公算が大きい」と具体的な数値を示したことが、大きな転換点となりました。AIによる代替可能性に関する分析自体は、2013年頃のオズボーン氏の論文[2]が代表例ですが、当時はSF的で「ホラーストーリー」と見られていました。しかし、2024年に至り、金融政策の安定を担うIMFのような機関が真剣に警告している点が大きく異なります。

 また、代替可能性の時間軸が大幅に前倒しされているのも特徴です。マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析によると、生成AI(ChatGPTなどのLLM)が登場する前の2017年時点では、ホワイトカラーの能力がAIによって完全に代替される時期は2040年や2050年頃と推定されていました。しかし、2023年時点での最新の推定では、ほとんどのホワイトカラー的な能力が2025年から2030年の間に代替できてしまうという、10年〜20年もの前倒しが起こっていると整理されています。

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図版出所:株式会社インディードリクルートパートナーズ「生成AIは労働市場をどのように変えるのか」レポート統合版※引用元:McKinsey & Company「The economic potential of generative AI The next productivity frontier」(2023)/クリックすると拡大します

栗原:理論上、雇用はどの程度代替されうるのでしょうか。具体的な分析結果を教えてください。

高田:研究者によって推計は様々ですが、ゴールドマン・サックスなどがまとめた著名な先行研究では、AIによって代替されうる雇用の割合は、ミニマムで23%からマックスで47%という幅で示されています。

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図版出所:株式会社インディードリクルートパートナーズ「生成AIは労働市場をどのように変えるのか」レポート統合版※引用元:Goldman Sachs「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth」(2023)/クリックすると拡大します
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図版出所:株式会社インディードリクルートパートナーズ「生成AIは労働市場をどのように変えるのか」レポート統合版※引用元:Goldman Sachs「The Potentially Large Effects of Artificial Intelligence on Economic Growth」(2023)/クリックすると拡大します

 この代替可能性の数字は、「100人のうちおよそ50人が職を失う」という意味ではありません。これは、全職業の約6割の人々において、その仕事のタスクの半分程度がAIによって代替される可能性がある、という見方です。つまり、多くの人の仕事にAIが浸食し、仕事の一部を奪うという形であり、個人の業務全体が完全にリプレイスされるケースはそこまで多くない、という半分悲観的で半分楽観的な分析結果と言えます。


[1]Reuters「Artificial intelligence hitting labour forces like a "tsunami" - IMF Chief」(2014)

[2]Carl Benedikt Frey and Michael A. Osborne『THE FUTURE OF EMPLOYMENT: HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?』(2013)

米国で進行する「ジュニア層代替」の現実

栗原:シミュレーションだった脅威論が、米国では今、どのような形で実体経済に現れ始めているのでしょうか?

高田:米国では、2025年に入り、AIによる雇用への影響が実態としてマクロ(統計)およびミクロ(企業行動)の両面で明確に現れ始めています。

■マクロ経済統計への示唆(FRBベージュブック)

 まず、マクロの動きとして、米国の若年層の失業率上昇が注目されています。米国全体(全年齢)の失業率は大きく変動していないにもかかわらず、直近で大学を卒業した若年層(22~27歳)の失業率が急激に上がっている現象が確認されました。当初は「景気悪化による新卒採用抑制」などAI以外の要因も指摘され、議論は二分されていました。

 しかし、2025年10月、米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が公表する『ベージュブック(The Beige Book)』に、AIによる労働市場への影響が初めて言及されました。特に、カンザスシティ連銀の管轄地域では、一部のプロフェッショナルサービス企業で、「AIの導入と実装に伴う、労働力の必要量削減に起因する大規模なレイオフ(人員削減)が発生した」という、AIによる明確な影響が記載されています。中央銀行という信頼性の高い機関が公式に報告したことは、AIがもたらす雇用の変化が現実の問題になったことを示します。

■ミクロデータによる構造の証明(ハーバード大学の論文)

 次に、その構造を裏付けるミクロなエビデンスとして、大規模なデータを用いたハーバード大学の学生による論文(プレプリント)が注目されています。この論文では、生成AIの導入・インテグレーション(統合)担当者(AI-integrator)を採用した企業が増加したタイミングが、ChatGPTリリースと一致していることが示されています。

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図版出所:Seyed Mahdi Hosseini Maasoum, Guy Lichtinger 「Generative AI as Seniority-Biased Technological Change:Evidence from U.S. Résumé and Job Posting Data」(2025)/クリックすると拡大します

 さらに重要なのは、AI-integratorを採用した企業(Adopters)と採用していない企業(Non Adopters)を比較した際に、AI-integratorを採用した企業の方が、ジュニア層(若手)の従業員がより多く減少しているという結果です。これは、「AIの導入を担う人材を確保した企業ほど、ジュニア層の代替を加速させている」という、AIによる人員削減の因果関係を強く示唆しています。この結果から、米国では若年層(ジュニア層)の非定型業務がAIによって代替され始めていることが、マクロ・ミクロの両面から証明できる段階にあると言えます。

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図版出所:Seyed Mahdi Hosseini Maasoum, Guy Lichtinger 「Generative AI as Seniority-Biased Technological Change:Evidence from U.S. Résumé and Job Posting Data」(2025)/クリックすると拡大します

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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