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「経営管理」注目トピックス

FP&Aは戦略(ポエム)と経理財務(算数)を接合する翻訳家。鍵は価値創造フレームワークという設計図

ゲスト:FP&Aエヴァンジェリスト 鷲巣大輔(わしず・だいすけ)氏

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日本企業へのFP&A導入は「制度」以上に「属人的な信頼」が鍵

栗原:日本企業がFP&Aを導入し発展させていく上での、海外との最も大きな違いは何でしょうか。

鷲巣:最も大きな違いは、FP&Aに対する「制度的な信頼」が確立されているか否かです。FP&Aは外資系企業では数十年の実績があり、意思決定プロセスを向上させる存在だと認知されています。しかし、日本企業ではFP&A部門ができたばかりで、「何をする部門か」という組織に対する信頼がまだないのが実情です。

 私が現在大学院で行っている研究では、日本企業では制度やプロセスが整っていなくても、信頼できるビジネスパートナー(人)がいれば、管理会計の有効性は高まるという、極めて高い属人性が明らかになりました。このため、日本企業がFP&Aを機能させるための最初のステップは、制度や組織を作ること以上に、個人の「属人的な信頼」から始めるべきだと私は提案しています。

栗原:「信頼できるビジネスパートナー」をCFOもしくは傘下にいるFP&Aリーダーなどとした場合、それらの人々はどのような行動をとるべきでしょうか。

鷲巣:先ほど述べたように「属人的信頼」が大事なので、まずは事業部サイドに入り込み、「お前、いいこと言うな」と事業サイドに思ってもらうことが鍵です。FP&A担当者が、先ほど紹介した価値創造のフレームワークを理解し、事業部と議論を重ね、事業部サイドからしても膝を打つようなストーリーを描けるかどうかが非常に重要です。特に、事業を推進している人たちが気づかないような、数字から読み取れるインサイト(洞察)を提供することで、信頼を得られます。

 たとえば、経理部門出身者であれば、過去のデータから収益率や回転率といったROIC(投下資本利益率)の構造は理解できています。この強みを生かし、「ここの数字を変えればROICが上がるが、それを実現するためには事業としてこのアクションが必要」という事業への発展的な解釈を加えられれば、事業部の参謀として認めてもらえるでしょう。

経営企画が「戦略の優先順位」と「資源配分」を差配するための武器

栗原:経営企画の方など、戦略や事業には詳しいがファイナンスの知識にあまり自信がないと感じている読者は、どう本書を活用すべきでしょうか。

鷲巣:経営企画の方には、戦略ストーリーを「構造化」と「定量化」することで、価値を測定する仕組み化まで落とし込むことを意識してほしいです。

 そのままでは具体が見えづらい“ふわっとした戦略”を、先ほどの価値創造のフレームワーク(バリュードライバー)に沿ってロジックツリーのように構造化します。これにより、「この施策の指標を1.5倍にしたら、フリーキャッシュフローはどれくらいになり、企業価値はどれくらい上がるのか」というインパクトを定量的に測定できるようになります。

 書籍では構造化の一例として、以下のように「売上成長要因のドリルダウン分析」を示しています。このレベルで分解することで戦略を具体的な施策に落とし込めます。

画像を説明するテキストなくても可
出典::『経営管理・ファイナンス部門のための FP&Aのすべてーーパフォーマンス管理、事業予測と計画策定、戦略的意思決定の全実務』(ダイヤモンド社、2025年)P186、図10.3「売上成長要因のドリルダウン分析」/クリックすると拡大します

 具体的な施策に落とし込むことで、複数の施策の中から、優先順位と資源配分を決めるための合理的な意思決定が可能になります。このような活動を経ることでFP&Aが、経営の意思決定の質を向上させることに貢献ができるでしょう。

AI時代に求められるFP&Aの「対話力」

栗原:たとえば「2030年」を見据えた際、AIの進化はFP&Aの業務にどのような影響を与えると考えられますか。

鷲巣:間違いなく、“Excelをたたく”ようなルーティンワークはAIとテクノロジーに代替されます。将来のキャッシュフローの見積もりやリアルタイムでのアップデート、リスク分析などはAIが担い、「こういうリスクがあり、インパクトはこれぐらい」というストーリーやナラティブ(物語形式の報告)の形でアウトプットされるようになります。

 そうなると、FP&Aがフォーカスすべきポイントは、出てきたアウトプットを使って、いかに意思決定権者と対話をするかという、ファシリテーションと対話の質に大きくシフトします。FP&Aは、AIが出した複数のシナリオに対して示唆を出し、経営陣とともに議論を重ねることで、最終的に大胆かつ健全なリスクを取り、企業価値を向上させるような体制を作るためのパートナーとなるでしょう。

 最近では、FP&Aをファイナンスだけでなく企業全体に影響を与える要素を含めた「xP&A(Extended Planning & Analysis)」として捉える動きもあります。この考え方は、財務計画・分析(FP&A)を財務部門だけでなく、事業部門全体に拡張した経営手法です。戦略、財務、業務計画を統合し、企業全体の可視性を高め、変化に迅速に対応できるようになることを目指します。

栗原:FP&Aの機能を日本企業全体に広めるために、今、特に何から始めるべきでしょうか。

鷲巣:私は、事業部や事業を推進する人にこそ、FP&A的な視点を持っていただくことが重要だと考えています。AIやクラウドデータ基盤の統合が進めば、本社と事業部側で同じ情報を見ながらオープンな議論ができるようになります。この議論の中で、FP&Aという機能が大胆なリスクテイクを可能にする武器として活用されれば、日本の会社はもっと強くなると確信しています。

鷲巣大輔

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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