権利と与信審査の壁を解消するビジネスモデル
椿:個人が広告を出す際のネックである与信審査と著作権・肖像権はどうクリアしたんですか?

河原:まず審査については、個人ではなく「ファン団体」という形をとってもらうようにしました。団体名を作り、問い合わせ先を明確にし、広告デザインにもそれを明記する。媒体社には「これは任意のファン活動なんです」と説明し、活動実績を示す概要書を私たちが作成して、一つひとつ調整していきました。
椿:粘り強い交渉が必要だったんですね。
河原:そしてもう一つの大きな壁が、タレントの権利関係です。日本で応援広告が流行らなかった最大の理由はここでした。そこで私たちは「ファンの代わりに事務所と交渉すること」をビジネスモデルにしたんです。
椿:なるほど。そこが代理店の介在価値になるわけですね。
河原:はい。ファンの方から「このタレントの広告を出したい」という相談を受けたら、私たちがタレントさんの所属事務所に企画を説明し、許可をいただく。事務所からOKが出れば、そのエビデンスを持って媒体社に審査を申し込む。この三者間の橋渡しをするスキームを構築しました。
椿:社内の反応はいかがでしたか?
河原:幸いにも当時の上司は、実績を積み重ねていく私たちの活動を理解し、背中を押してくれました。ところが始動から約一年が経った頃、営業と応援広告のどちらが本業かわからなくなるほど忙しくなってしまったんです。夜九時まで営業の仕事をこなし、そこから終電まで応援広告の問い合わせに対応する日々でした。
椿:それは体が保ちませんね。
河原:そこでようやく、新規事業を担当する部署に相談しました。「これだけの問い合わせ件数があるなら、ちゃんとブランド名をつけて会社としてやろう」と言ってもらい、2022年にようやくCheering ADという名称と専用のLPができました。
社外からの評価が社内での説得力を高めることも
椿:そこからさらに加速したんですか?
河原:はい。ただ、案件が増えすぎて問い合わせ対応がパンクしました。「新宿駅にあるあの広告枠はいくらですか?」という質問が一日に何十件も寄せられるため、前職でアパレル企業のECサイト構築に携わった経験から「広告枠をECサイトで買えるようにしよう」と思いついたんです。
椿:広告枠買い付けのEC化! 画期的なアイデアです。
河原:応援広告は前金でのお取引が原則なため、ECとの相性は良かったんです。2023年4月に、日本初となる広告が買えるECサイト「Cheering AD オンライン」を立ち上げました。サイトの裏側にCRM(顧客管理システム)を入れて、問い合わせ対応を極限まで効率化しました。少人数のチームで回すためには、DXが不可欠だったんです。
椿:素晴らしいイノベーションです。本来、広告はもっとオープンで買いやすいものであるべきですよね。
河原:そうなんです。今ではこのサイトに、企業さんからの問い合わせも届くようになりました。多言語に対応しているため、海外企業からの申し込みもあります。
椿:ここまで実績を作ってきて、社内での見られ方は変わりましたか?
河原:推し活の機運が高まり、メディアに取り上げていただく機会も増えたため、社内の理解は少しずつ得られるようになってきました。ただ、既存事業に比べると売上規模はまだまだ小さいですから「自分の好きなことをやっている人たち」という印象もゼロではありません。ビジネスとして大きくする気概があることを、社内で一生懸命発信しています。「TMIP Innovation Award 2025(※)」にエントリーしたのは、社外からの評価が社内での説得力を高めると考えたためです。
※大企業発の新規事業創出を表彰する制度。オープンイノベーションプラットフォーム「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」が主催している
椿:Cheering ADは見事に最優秀賞を受賞されましたね。私も社内で思うように評価してもらえなかった時期は、意識的に社外と接点を持つようにしていました。外部のフラットな評価が救いになりますし、そこで出会った人たちとのつながりは十年後も続いています。
社内に格付け制度のようなものがあると、新規事業はもっと評価されやすくなるかもしれませんね。売上規模は小さくても「一人あたりの営業利益が高い」「新規顧客の獲得率が高い」など、多角的な指標があれば社内での立ち位置も明確になりますから。
