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新規事業を成功に導く“デザイン”の力

「つくる力」の民主化でデザイナーは不要になる? テクノロジー×デザインで切り拓く事業開発の新境地

第5回

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事例にみる、AIと3Dプリンターによる創造性の拡張

 テクノロジーによって「つくる力」をどのように「拡張」させることができるかを模索した、quantumのデザインR&Dプロジェクト「mitate」について紹介します。このプロジェクトは、デザイナーが人工知能(AI)の特徴抽出能力と、フルカラー3Dプリンターを使った先端造形技術を活用しながら、新たなモノづくりのプロセスを形にする試みです。このプロジェクトを通して私たちは、「人とAIが一緒にモノをつくるとはどういうことか?」という問いに、デザインの視点から向き合いました。

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 テーマとして選んだのは、私たちの生活にとても身近な「器」です。器という最も原始的なプロダクトに最新の技術を掛け合わせることで、今までにない共創の可能性が生まれるのではないかと考えました。具体的には、まず大量の器の画像を学習させた画像生成AI(GAN)を構築。そこに「見立て」の起点としたい画像を入力します。そうするとAIが、入力した画像の特徴を持った器の画像を生成し出力します。最後にそれを3Dプリンターで実際に形にするというプロセスを構築しました。

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 AIによって生成された画像は、焼き物の偶発性を思わせるような、不思議な揺らぎや歪みを含んでおり、毎回異なる表情を見せてくれます。この「偶然の造形」を前にして、デザイナーが果たすのは、器としての価値を見出し、それを選び取り、プロダクトとして完成させるという役割です。AIが生み出した多様なパターンの中から、「これが良い」と感じるものを選び抜く行為には、人間ならではの価値観が宿ります。

 特に器というプロダクトにおいて、デザイナーは「審美性」と「機能性」という2つの軸を持って選択を行います。たとえば、ひと目見て惹かれる美しさがあるか。触れたときに心地よさを感じるか。さらに、実際に使うシーンを想像して、持ちやすさや安定性、容量や用途との適合性など、実用性も細かく検討されます。AIが提示する形に対して、「なぜそれが美しいのか」「器としてふさわしいか」を問い直すことで、プロダクトとしての完成度が高まっていくのです。

AIを「創造のパートナー」とするために欠かせない「仕組み」の設計

 このように、AIが生み出す偶発的なデザインに対して、自分の感性と理性を重ねながら選択し、意味づけていくプロセスを通じて、これまで自分一人では思いつかなかったような表現にたどり着けます。このプロジェクトは、AIを単なる効率化のツールではなく、「創造のパートナー」として捉える視点を提示しています。デザイナーが自らの感性を持ってAIと向き合うことで、モノづくりはより自由で、より広がりのあるものになっていくのです。

 また、このプロジェクトにおいて注目すべきもう一つの視点があります。それは、デザイナーが「モノそのもの」だけでなく、「モノをつくるための仕組み」そのものをデザインしているという点です。私たちはこれまで、デザインというと完成されたプロダクトの形に目を向けがちでした。しかし、mitateのようなプロジェクトでは、先端技術を活用しながら、どうすれば誰もがその技術を使って、自分なりの創造ができるのかといった「仕組み」の設計こそが重要なテーマになっています。

 ツールや技術が普及するからこそ、それをどう使えばクリエイティブなアウトプットが生まれるかを設計することが、デザイナーにとってますます重要になっていく。つまりデザイナーとは、単に最終アウトプットをつくる人ではなく、誰もがモノづくりに関われるような「環境や体験もデザインする人」へと進化していくのではないでしょうか。

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技術を体験へと“翻訳”する。Google GlassとRay-Ban Metaの明暗

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この記事の著者

門田 慎太郎(モンデン シンタロウ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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