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新規事業を成功に導く“デザイン”の力

ダイソンの掃除機やクルマイス「Wheeliy」に学ぶ、プロトタイピング×新規事業開発の真価

第3回

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 新規事業の現場に重くのしかかる「失敗できない」というプレッシャー。その完璧主義こそが、プロジェクトを停滞させる大きなリスクになりかねません。本稿では、そのリスクを回避し、アイデアを成功に導く「プロトタイピング」の本質に迫ります。「まず作ってみる」ことで、いかにして課題を早期に発見し、失敗を価値ある学びに変えられるのか。ダイソンやクルマイス「Wheeliy」の事例を交え、不確実性の高い事業開発の成功確率を高める思考法を、デザイナーが果たす役割と共に解説します。

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プロトタイピングで新規事業の“リスク”を回避する

 新しい事業を立ち上げる時、多くの人が「失敗は許されない」「完成度の高いものを出さなければ」というプレッシャーに捉われます。期待や責任が重くのしかかるほど、最初から完璧な状態を目指してしまうのは無理もありません。しかし、新規事業開発において、その慎重すぎる姿勢が、かえって大きなリスクにつながることがあります。

 では、そのリスクをどう回避するか。鍵を握るのは「まず作ってみる」、すなわちプロトタイピングです。

 どれだけ頭で考えても、アイデアが生活者にとって本当に必要とされるものかは、机上では判断できません。実際に「まず作ってみる」ことで初めて、頭の中の理想と現実のニーズとの「ズレ」を発見し、修正できるのです。プロトタイピングは、まさにその「ズレ」と向き合うための不可欠な手段と言えます。

 よく誤解されがちですが、プロトタイピングは完成に向けた単なる途中段階ではありません。それは、プロダクトやサービスの「価値」が確かに存在するかどうかを見極める、重要な検証プロセスです。つまり、生活者に何をどのように届けるべきかという「問い」を立て、それが適切だったかを確かめるための実験装置なのです。

 アイデアに形を与え、ユーザーに見せてフィードバックを得る。その声を元に、問いを立て直し、再び形にしてみる。この仮説検証のサイクルを何度も繰り返すことで、プロダクトは少しずつ、しかし着実に価値を増していくのです。

ダイソンの5,127回の試作が証明した「作りながら育てる」力

 皆さんご存知のダイソンのサイクロン掃除機は、プロトタイピングの真価を物語る好例です。

 創業者ジェームズ・ダイソンは、もともと掃除機メーカーの人間ではありませんでした。着想のきっかけは、彼が訪れた木材工場に設置されていたサイクロン式分離機。大量の粉塵を遠心力で分離する仕組みを目にし、「この原理を家庭用掃除機に応用すれば、紙パックが不要で吸引力が落ちない掃除機ができるのではないか」というアイデアが閃いたそうです。

出所:The James Dyson Foundation「OUR STORY
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 しかし、その着想を製品へと落とし込むには、数多くの技術的・構造的な壁が立ちはだかりました。そこで彼が取ったアプローチが、徹底的なプロトタイピングでした。

 最初は、段ボールやガムテープといった身近な素材でサイクロン気流を発生させる模型を作り、吸引の流れを確認。次に、実際の製品に近い金属やプラスチックで試作機の精度を高め、家庭で使えるサイズや形状を探っていく。動かしてみると、予想外の詰まりや効率の悪さが次々と見つかり、その度に設計を修正しては次の試作へ進む。このプロセスの中で、彼は実に5,127台もの試作機を作ったと言われています。

出所:The James Dyson Foundation「OUR STORY
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 重要なのは、彼が最初から完璧を目指したわけではないことです。むしろ「まず作ってみる」ことを優先し、実験を通して課題を浮き彫りにし、失敗を糧に次の改善へとつなげていきました。その結果として「吸引力が落ちない」という新たな価値を持つ製品が生まれ、やがて世界的に支持されるまでに成長したのです。

 この「作りながら育てる」姿勢こそ、新規事業開発における大きな武器です。不確実な状況では、完璧さよりもスピードや柔軟性が求められます。初めから「完成」を目指すのではなく、常に「進化の途中」であるという意識が成功を引き寄せます。

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プロトタイピングでデザイナーが果たす役割

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この記事の著者

門田 慎太郎(モンデン シンタロウ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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