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Airbnbやメルカリに見るイノベーションの正体「価値移転」──外部不経済を考慮した事業の可能性とは

ゲスト:グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター 野本遼平氏

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イノベーションの副作用「外部不経済」を直視する

栗原:本書では「価値移転」の光だけでなく、その影の部分である「外部不経済」についても深く言及されています。なぜ「原罪」という強い言葉を使われたのでしょうか。

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資料提供:野本遼平氏/クリックすると拡大します

野本:エネルギー保存則という物理法則を前提とするなら、この世において何かを生み出すときには、常に別の場所から何かを移動させているはずです。当然、ビジネスも例外ではなく、価値が生まれるときには、必ずどこかで負担や歪みが発生します。成長が生まれるときには、少なくともどこかで、何らかの負担や縮小が生じていることが少なくありません。化石資源をエネルギーとして消費し、人間社会は爆発的な経済成長を遂げたが、それによって地球温暖化が進行しているというのが最も典型的な事例です。

 このように、価値移転、もっと言えば資本主義が本質的にゼロサム的な構造を内包している以上、外部不経済を完全に避けることは難しいという意味で、「原罪」という言葉を用いました。重要なのは「全能感を捨てる」ことなのではないかと感じています。起業家や新規事業担当者として「自分がゼロから世界を変えた」「世界を良くしている」と思いたくなる気持ちはわかるのですが、実際には先人たちが積み上げたインフラや文化、自然の恵みを「移転」させることで、可視化されているかどうかはさておき、何かしらの副作用を生み出しながら、成果を上げているはずです。

 故・松岡正剛氏が説いたように、文学者も文法をゼロから作ったわけではない。過去の情報の組み合わせの上で表現しているだけです。自分たちが何に依拠し、何から価値を「借りて」きているのかを意識することで、初めてサステナブルな、つまり外部不経済を最小化しようとする責任ある経営が可能になります。

「ゼロから創る」新規事業の呪縛を解き放つ

栗原:これからの時代、単なる「掘削的・収奪的な価値移転」ではないイノベーションの形はあり得るのでしょうか。

野本:資本主義は、本質的にゼロサム的な側面を持ち、外部不経済を完全に回避することは構造的に難しいもののように見えます。だからこそ、問題は「外部不経済をなくすこと」ではなく、それを前提としたうえで、どのように引き受け、どこまで緩和できるのかを考えることにあるのだと思います。

 その際のアプローチは一つではありません。たとえば、ルールメイキングや制度設計を通じて、外部不経済を市場の外に放置せず、意思決定の中に織り込んでいくという方法があります。炭素価格のように、これまで見えにくかった負担を可視化し、取引の前提条件として組み込むことも選択肢です。

 また、資源循環・サーキュラーエコノミーという発想も重要です。これまで廃棄されてきたものや、価値を失ったと見なされてきたものを再び資源として捉え直す。その際には、資源を循環させる「取引コスト」を、テクノロジーでどのように劇的に低下させるかがポイントになるでしょう。

 さらに視野を広げれば、人類の活動領域そのものを拡張するという選択肢もあります。宇宙空間の利用は、その最先端の例です。地球という閉じた系の中で生じていた制約やトレードオフを、より広いフロンティアへと進出させることで、価値移転の余地を物理的に拡張する。宇宙も有限である可能性があるので、この発想によってゼロサム性そのものが消えるわけではないですが、構造的な制約条件を中長期的に変える一つの方向性ではあります。

 重要なのは、どの手段を選ぶにせよ、「無から有を生み出す」や「リソースは無限である」という幻想に立ち戻らないことです。価値は常にどこかから移動してくる。その前提に立ったうえで、どの移動を許容し、どの負担を引き受け、どこまで緩和するのか。その選択こそが、これからの時代の戦略やイノベーションの核心になるのだと思います。

栗原:最後に、日本の大企業で新規事業に挑む読者や、スタートアップ起業家へメッセージをお願いします。

野本:「日本には米国のようなイノベーションがない」と嘆く必要はありません。そもそも米国のビッグテックも、既存の技術を巧みに「移転」させてきて巨大企業にまで成長しました。日本の新規事業担当者の皆さんに伝えたいのは、「ゼロから創る」という呪縛から自分を解放してほしい、ということです。

 皆さんの目の前には、長年培われた技術、信頼、眠っている設備、盤石な顧客基盤、優秀な従業員といった膨大な「再定義されることを待っているリソース」があります。それを別のエコシステムにつなぎ直すだけで、それが立派なイノベーションにつながる可能性は低くありません。

栗原:本日は「価値移転」というレンズを通して、ビジネスの本質と未来を読み解く非常に刺激的なお話でした。ありがとうございました。

野本遼平

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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