東証改革の本質と「数値目標」の罠
チェックリスト1|現状診断
- PBR改善策を説明しても、投資家の質問内容が変わっていない
- 投資家がどのKPIを前提に自社を評価しているか把握できていない
- IRが「過去の説明」に偏り、「未来の見通し」を十分に語れていない
- IRで得た示唆が経営会議の議題になっていない
現在、多くの上場企業がPBRの改善に向けた取り組みを加速させています。しかし、PBR1倍超えを単なる数値目標として捉え、自社株買いなどのテクニカルな対応や、開示のための施策リストをそろえることに終始してしまう企業は、持続的な企業価値向上につなげることが難しくなります。
東証が求めているのは、PBR1倍という「結果」そのものではありません。その本質は、経営陣が資本コストを明確に意識し、持続的にリターンを生み出す経営を実践しているか、そして、そのプロセスを市場に対して説得力を持って説明できているかという点にあります。PBRはあくまで、企業価値向上のプロセスを経た「結果」として達成されるべきものです。単純に数字だけを目標にしてしまい、たとえば利益体質の改善をともなわずに、資本が過剰に希薄な状態でPBRだけが1倍を超えても、それでは東証が意図している姿とは違った結果になりかねません。
投資家との「評価軸のズレ(認識ギャップ)」
また、多くの企業は「開示を尽くしているのに評価されない」という悩みを抱えています。その原因の多くは「開示不足」ではなく、投資家との「評価軸のズレ(認識ギャップ)」にあります。
経営陣には「自社を最も理解しているのは自分たちだ」という自負があるでしょう。一方で「マーケットの中で自社がどう位置付けられているか」という客観的な視点を持ちにくい側面があります。企業側はしばしば、過去の施策や実績の説明といった従来型のIRに終始し、同業他社や、異業種でもビジネスモデルが類似する競合他社と比較したときの市場評価への認識が不足しがちです。
それに対し、投資家は「将来の成長の再現性」「資本配分の妥当性」「リスクの見通し」をシビアに評価しています。こうした市場の視点と自社の自己認識とのギャップを埋めることが、市場の評価との乖離(かいり)を本質的に埋めることにつながります。
ここで提示したいのが、従来のIRから脱却した「価値創造IR(IRX:IRトランスフォーメーション)」というアプローチです。
IRXとは、法令や市場の要請に対する形式的な対応を義務として捉えるIRではなく、資本市場からの客観的な評価を起点に、企業の成長戦略、KPI、資本配分を一貫したストーリーとして提示する活動です。投資家と「今後自社がどのような時間軸で、どのような価値を創造していくか」という前提を一致させることで、適正なバリュエーション(企業価値評価)を能動的に形成しにいくこと。それがIRXの中核にある考えです。
