なぜ経営企画に配賦が必要なのか
経営企画の実務の中で最も本質的な理解が難しく、最も揉めやすい論点の一つが「配賦」です。しかし、実践する機会があまりない担当者もいるでしょう。なぜなら配賦は、事業が複数ある企業でこそ重要になる概念だからです。

配賦とは、全社で共通して発生している費用や事業に直接紐づかない費用を、一定のルールに基づいてコストの対象に割り振ることです。代表的な例に事業配賦があり、A社がa事業とb事業を展開している場合、オフィス賃料や通信費などの費用を利用面積比率や在籍人員比率で各事業に按分します。
なぜこのような作業が必要なのでしょうか。答えはシンプルで、各事業の利益を正しく把握するためです。たとえばA社全体が黒字でも、中身を見ると「a事業は黒字」「b事業は赤字」という状況だったとします。その場合、b事業は「採算性を改善するために手を打つ」あるいは「撤退する」といった判断を要します。その判断のためにも、事業別の損益を適切に把握できるようにしておく必要があるのです。
売上は日頃から事業単位で管理されていることが多い一方、費用は事業と必ずしも直接紐づいてはいません。そのため、後から各事業に割り振る必要が生じるのです。「費用を最初から各事業に割り振れば良いのでは」と考える読者もいるでしょう。その発想は本質的には正しいと言えます。
たとえば、広告宣伝費の展示会費用をa事業のものとして登録するなど、全ての費用をあらかじめ事業や内容ごとに整理できていれば(いわゆる直課経費)、極端な話、配賦は不要になります。しかし問題は、事業ごとに整理するのが難しい費用があるということです。
たとえば、コーポレート業務のコストはその典型と言えるでしょう。A社の人事担当者が「9時から11時までa事業、11時から12時までb事業に関する業務を行った」と正確に整理するのは容易ではありません。できる限り直課経費を管理しつつも、明確に割り当てられない費用は何らかのルールを設定して割り振るしかないのです。
事業責任を見える化する装置と心得よ
「どうしても直課経費にできない共通費用があるなら、それを除いて事業別損益を出せば配賦は不要では?」という声も聞こえてきそうです。「全ての事業で共通費用を付加しなければ、同じ条件で事業の利益を比較できる」という発想は、一見筋が通っているように思えます。もちろん、このような管理を行う会社もありますが、次のような観点を検討する必要があります。
たとえば、共通費用を一切付加しない前提でa、b、c、d事業がそれぞれ+10の利益を出し、合計+40だったとします。問題なさそうに見えますが、共通費用が▲50かかっていれば、各事業は黒字でも全社では赤字です。企業の目的が全社の利益拡大にある以上、共通費用を含めてもなお黒字となるように事業利益を出す必要があります。
この背景の理解を深めるには「そもそもなぜ企業は事業を分けたか」を考えると良いです。企業は通常、単一事業から始まり、最初は経営層が利益を管理します。事業が拡大すると職能別に部門責任者が生まれ、営業部なら売上、生産部なら原価、バックオフィスなら費用などを管理しますが、利益そのものの管理は社長が担い続けます。
しかし、さらに拡大が進めば社長だけでは利益を管理しきれなくなります。そこで、社長に代わって利益の管理の一部を移譲される責任者が置かれます。それが事業責任者です。つまり、事業別損益の管理は単に事業を分けて管理する行為でなく、全社の利益を分割し、利益責任を持つ人を設ける行為なのです。
事業責任者は全社利益の管理責任を分担する存在ですから「全社共通費用は関係ない」と切り離すことはできません。共通費用も自らの責任として管理し、それを回収できる事業設計が求められます。だからこそ、その分担方法である配賦が重要なのです。配賦はいわば、事業責任者に負わせた責任を“見える化”するための装置と言えます。
