目的を理解しないから“作業”になる
予実管理とは、予算(計画)と実績(結果)を比較し、その差を分析して改善につなげる管理手法です。前回触れたように、経営企画部門の役割が「経営陣を意思決定に集中させるための環境づくり」であるなら、予実管理はまさにコア業務と言えます。

しかし、経営企画部門の担当者の中には、予実管理の意義をそれほど実感できていない人も多い気がします。業務フローが確立されている予実管理は、単に手を動かすだけの“作業”になりがちです。現場から実績データを集めて財務会計データと突き合わせ、表計算ソフトで加工・資料化するだけでも相当な労力を要します。「何のためにこれをやっているのか」を考える余裕すらないのが実情でしょう。
目的を理解できていないと、かえって手間がかかるのが予実管理というもの。上場企業の経営企画部門で勤務していた私は「今年度のPLの着地見込みを作ってほしい」と依頼された際、すべての数字を“正確に”かつ“最速で”出そうと必死になっていました。しかし今振り返れば、依頼の目的に応じて出す数字の精度や粒度を調整すれば良かったのです。
たとえば、外部報告した計画に修正が必要か判断することが目的の場合。「適時開示や業績予想の修正が必要なほど大幅な変動があるか」がわかれば問題ありません。一方、確定計画の立案が目的の場合は、予実管理の数字が全社のリソース配分や予算承認などに直接使われるため、詳細なアウトプットが必要です。つまり、予実管理の目的さえ理解していれば「力の入れどころ」がわかり、業務を効率的に進められます。
予実管理は単なるお金の管理ではない
予実管理の目的を見失うと、より本質的な問題が生じます。「予実差を算出しても、改善提案につながらない」という問題です。たとえば「ある事業部の売上の実績が計画を下回っていた」というアウトプットは、単なる事実であって分析ではありません。「新規セグメントAの売上未達が主因」という分析も、改善施策につながるレベルではないと言えます。
ここで必要なのは、予算の前提をさらに深掘りすることです。
・セグメントAの売上目標は「新規プロダクトの販売」と「見込み顧客の獲得」によって達成できる見込みだった
・しかし、新規プロダクトをリリースできなかった/見込み顧客を確保できなかった/どちらも実行したのに結果がともなわなかった
ここまで深掘りして初めて、次のような打ち手を導けます。
・新規プロダクトのリリースに向けて体制やリソースを強化する
・見込み顧客の獲得方法を見直す
・そもそもの市場性に疑問があるため計画を再考する
言い換えるなら、予実管理は「予算を仮説と見なし、その妥当性を検証するプロセス」です。先の例では、予実管理が「新規プロダクトの投入と見込み顧客の確保でセグメントAの売上目標を達成できる」という仮説を検証する構造になっていたため、改善の方向性を示すことができました。
仮説は事業戦略やKPIの上に成り立っています。つまり、予実管理は単なるお金の管理ではなく、事業そのものの管理なのです。
