エージェント型AIの先にある汎用人工知能の現在地
NRIの長谷佳明氏は、エージェント型AIの先にある「汎用人工知能(AGI)」という根源的なテーマを詳説した。AGIとは、人間と同等の知能と自律性を発揮し、知的作業のほとんどを代替できるシステムである。
長谷氏は、OpenAIやAnthropicのCEO、ジェフリー・ヒントン教授ら権威たちの予測を引用し、SFと思われてきたAGIが現実の検討対象までになっている現状を示した。
特に衝撃的なのは、OpenAIが描く「2028年の完全に自律的なAI研究者」の誕生である。人間ではなくAIそのものがAIを研究し始めることで、急激な進化が起こる「知能爆発(Intelligence Explosion)」の引き金となり、汎用人工知能を越える「超知能(ASI)」の登場さえも視野に入ってくる。
特化型AIとの決定的な違いは、スキルを活用するための知識がAIの内部に「内部化」されている点にある。自ら判断し、どのスキルで課題を解決すべきかを選択できる自律性こそがAGIの本質である。
DeepMindの定義によれば、現在はAIがタスクを主に実行し、人は判断のみを行うレベル4(半自律)から、AIがすべてを自律的に遂行するレベル5(完全自律)への「深い谷」を越えようとしている段階だ。
「実世界の壁」を突破する鍵:世界モデル
現在のAIは、インターネット上の膨大な「間接的情報」から急激に高度化したものの、物理法則などの「常識」が欠けており、実世界での適用には限界(実世界の壁)がある。この壁を突破する最重要技術が「世界モデル(World Model)」である。
世界モデルとは、実世界の状況を抽象化して再現した「内界」であり、AIに想像力を与え、実世界の予測のためのシミュレーションを可能にする。ヤン・ルカン教授が提唱するように、詳細な状況を予測するのではなく、モノが落ちる・倒れるといった抽象概念を予測・計画できる能力が、高度な自律性の鍵となる。
この能力の獲得には、現在の大規模言語モデルの約50倍ものデータが必要になるとの試算もあるが、AIグラス等による「一人称視点データ」や、人の成長過程を模倣する「カリキュラムラーニング」により、効率的に獲得できる可能性がある。
企業の競争優位性は「適応性」や「復元力」へ
長谷氏は「AGIは突如登場するのではなく、技術革新の段階に応じ、徐々に社会を変容させるだろう」と予測する。
これからの企業は、コスト低減や品質均一化といった「既存の競争優位(効率性・安定性)」に加え、変動への追随を可能にする「適応性」、例外から復旧する「復元力」、能力を柔軟に伸縮させる「弾力性」を兼ね備えた、動的な自律型基盤を構築することが求められる。
また、企業の枠を超えた業務の自律化が進むと、複数の企業エージェントが相互に連携し、発見・交渉・契約・履行を自動で完遂する「自律型経済圏(エージェンティック・エコノミー)」が形成されると予測されている。
この経済圏では、ユーザーの要求に基づきAIが最適な商材を「発見」し、代理決済を含む条件合意で「契約」を結び、既存システムと連携して「履行(配送・返品等)」までを担う。さらに、トラブル時の「救済」や監査証跡の確保も自動化され、人間は高次な意思決定に専念できる。この経済圏を支えるのは、ACP(エージェント間通信)やAAIF(認証・監査)といった共通基盤であり、従来の「効率」を超えた、環境変化への圧倒的な「適応性」と「復元力」が企業の新たな競争優位の源泉となるであろう。
