「顧客とのつながり」を獲得・維持するメカニズム
顧客リレーションシップのメカニズムとは、企業がターゲット顧客との関係を確立・維持するための働きを表わすものです。メカニズムは、効用という属性を持つと同時に、前回ご説明したチャネルのサブ要素であるリンク(購買前、購買時、購買後)の内容を継承する場合があります(図6)。
効用は、顧客リレーションシップのメカニズムが果たす機能であり、パーソナライゼーション、ブランド、評判、信用、コ・クリエーションをここではその代表例として取り上げました(図7)。各々の効用を簡単にご説明していきましょう。
パーソナライゼーション
パーソナライゼーションと類似する概念に「マスカスタマイゼーション」があります。前者が個々の顧客を識別し、より個別化されたマーケティング、サービス、補完的なオファーを提供することを意味する一方で、後者は顧客ニーズに対してテーラーメード化されたプロダクトやサービスを提供することを意味します。Dellはマスカスタマイゼーション、Amazon.comはパーソナライゼーションの代表格です。パーソナライゼーションによって、顧客は当該企業に親近感を覚えるようになります。
ブランドと評判
ブランドが提供する約束を示すブランド・アイデンティティと、顧客が受け取るブランド・イメージが一致した際、強力な顧客ロイヤルティが生まれることは周知の事実です。また、SNSやコミュニティを通じた社会ネットワーク内の口コミなどによる評判は、企業にとって無視できないほどの大きな存在になりつつあります。
信用
第三者によるラベリング(環境、省エネ、安全マークなど)、第三者認証、格付といったものを通じて、企業はプロダクトやサービスに対する信用を補完させることができます。eBayやヤフオクのようなネットオークションでは、知らない相手との取引に対する不安を軽減するための信用メカニズムが数多く組み込まれています。
コ・クリエーション
コ・クリエーションは、価値提供の仕組みというよりも顧客と共に価値を生成することを意味しますが、顧客との心理的・精神的な絆を高める働きをもつため、効用の1つとして取り上げました。コ・クリエーションには、企業が顧客の活動に参画する、顧客が企業の活動に参画する、という2つの側面があります。Nikeを例に取れば、顧客のトレーニングを支援するプロラム「Nike+」が前者、シューズのデザインに顧客が参画するプログラム「NikeID」が後者に相当します。
顧客リレーションシップの原点は、昔ながらの商店街の名物おじさんにあります。たとえば、パン屋のご主人は、いつも買物に来る顧客の時間帯に合わせて焼き立てのパンを提供しています。また、人望が厚く町の住民からの信用があり、評判も上々です。パンが美味しいだけでなく、ご主人はお店の看板でもあります。また、住民とのパン作り体験教室を開くこともあるでしょう。これらがどのような効用を持っているかを是非考えてみましょう。