味の素グループの挑戦:年間1万時間を創出し、戦略経理へシフトする
味の素グループの国内の財務経理業務のシェアドサービス(集約化・標準化・コスト管理)を担う味の素フィナンシャル・ソリューションズ(以下、AFS)。同社の木田啓太氏は、プロジェクト着手の背景について述べた。AFSは味の素グループの財務・経理基盤として企業価値を最大化することをミッションに掲げ、国内グループ8社の業務を担っている。
その役割は単なる定型業務の遂行にとどまらない。木田氏は「一般的なSSC(シェアードサービスセンター)に留まらず、事業パートナーの領域に経営資源をシフトすることが我々のありたい姿だ」と強調する。同社では「DX/OE(業務の高度化・効率化)」を徹底し、定型業務の自動化や外部化(BPO活用)を推進することで、創出したリソースを人財育成や付加価値創造へと注力させている。
今回、AFSがファーストアカウンティングと共同で実現したのは、単なるデータの電子化ではなく「会計知識や社内規定に基づく高度な判断」の自動化である。
具体的には、これまで多くの工数を割いていた経費精算の経理承認業務を「経理AIエージェント」へ移行した。この経理AIエージェントは、法令や会計基準といった「上位ポリシー」に加え、味の素グループ固有の「グループポリシー」や、各社ごとの「経理規則・運用ルール」までも処理に反映させることができる。
「これまでは人でしかできなかった『ルールに基づく差し戻し判定』をAIが担うことで、スピーディーかつ持続可能な体制が構築できた」と木田氏は語る。承認業務の大部分をAI化する一方で、人間は「事後サンプルチェック」による内部統制の担保という本質的な業務にシフトしている。
領域特化型AIが創るエコシステムとリーダーシップ
期待される導入効果は極めて大きい。月間約1万件におよぶ経費精算の判定業務をAI化することで、年間約1万時間の削減を見込んでいる。1件あたり約5分かかっていた人間の判断を、AIが5倍から10倍の速度で代行する計算だ。
木田氏は、削減した工数をさらなる業務委託の拡大に充て、社内のプロフェッショナル人財を「管理会計の高度化」や「業務コンサルタント」といった、より利益に直結する領域へ再配置していくビジョンを示した。
また、汎用型AIではなく特化型AIを選択した意義について、木田氏は「各社が個別にAIアプリを作ってもスケールしない。経理領域に特化したモデルを日本中の会社が利用可能にすることで、産業全体を高度化させるエコシステムが必要だ」と説いた。
本勉強会の内容は、経営企画部門のリーダーにとって極めて重要な示唆を含んでいる。
第一に、自社の業務プロセスを「AIが学習可能な形式(AI-Ready)」に整理し直すことの重要性だ。AFSが短期間で成果を出せたのは、第一弾の「経費精算の経理承認業務」のフローを可視化し、ルールの差異を見える化(ナレッジ化)していたからに他ならない。
第二に、AIを「ツール」ではなく、意思決定を共に行う「エージェント(代理人)」として再定義することだ。AIによる自動化は経理担当者の仕事を奪うものではない。むしろ、人財不足という「制約」から組織を解放し、人間がより戦略的な、企業価値を生む仕事に集中するための基盤となる。
経理部門のDXは、今やバックオフィスの効率化という枠を超え、企業の競争力を左右するフロントラインの戦略となっている。
