コア・コンピタンス-“ぶれない”事業領域の決定
コンピタンスの定義
おそらく、コンピタンスはビジネスモデルの中で最も抽象的で分かりにくい要素ではないでしょうか。コンピタンスという概念がビジネスで幅広く使われるようになったのは、1990年代の半ばに経営学者のG.ハメルとC.K.プラハードによって提唱された「コア・コンピタンス」という概念によるものです。これは、競争優位の源泉を企業内部の組織能力に求める戦略アプローチです。まずは、ビジネスモデルにおけるコンピタンスの定義と属性を見ていきましょう(図表4)。
コンピタンスは、1つ以上のリソース(経営資源)というサブ要素を持っています。何らかの価値を生成するために保有しているものがリソースであり、それを有効に活用できる能力がコンピタンスです。日本には宝の持ち腐れということわざがありますよね。これは、せっかく良いモノ(リソース)を持ちながら、それを使いこなす能力(コンピタンス)がないことを指します。たとえば、1970年代におけるゼロックスのパロアルト研究所は、優れたテクノロジーや研究者を抱えていましたが、経営陣がその価値に気づいたのはずっと後のことでした。
コア・コンピタンスは事業領域を決定する
コア・コンピタンスとは、企業がもっているコンピタンスの中で、持続可能な競争優位性をもたらすものを指します。概念モデルに照らし合わせれば、「差別化された価値提案は、コア・コンピタンスに基礎を置く」と言い換えることができます。
自社のコア・コンピタンスを明確にすることは非常に重要です。それは、自社のビジネスは何かを深く理解し、将来どのようなビジネスができるのかを検討するうえでの手掛かりとなるからです。
たとえば、ホンダが自社をオートバイ・メーカーと定義していたら、現在のようなビジネスモデルにはならなかったでしょう(図5)。Amazon.comが自社をオンラインの書籍販売と定義していたら、取扱商品の水平展開、中古マーケットプレイス、クラウド・サービスが実現されることはなかったでしょう。
反対に、自社のコア・コンピタンスを正しく理解していれば、むやみに流行へ手を出し、事業を多角化して失敗をするリスクを軽減させることができます。3Mのような数千にもおよぶプロダクトをもっている企業でさえ、粘着剤やコーティング技術といったいくつかのコア・コンピタンスに支えられているのです。