生成AIの爆発的普及がもたらすビジネスの高速化と競争優位性の変化
現代のビジネス環境は、生成AIの台頭によって劇的な転換期を迎えている。ソフトバンクグループの孫正義氏が「AIと向き合うことが当たり前になった」と指摘[1]するように、私たちは“AIと共に働く”時代へと足を踏み入れた。ファインディで執行役員CPOを務める稲葉将一氏は、本セッションの冒頭、AIによってもたらされた経営環境の変化を次の3つの切り口で整理した。
- ビジネスの高速化:企画・開発・検証の反復サイクル(イテレーション)が圧倒的に短縮され、市場への試行回数をいかに多く回すかという「スピードと実行の勝負」へと移行している。
- スケーラビリティ(拡張性)の拡張:調査やコーディングなどの知的作業をAIが代替することで、少人数でも莫大な価値を量産できるようになり、海外では数人規模のユニコーン企業も誕生している。
- 競争優位性の変化:生成AIによって機能や製品の「模倣」のハードルが下がった結果、コモディティ化が加速。それに伴い、企業独自のデータやドメインの知見、信頼性やオフラインの顧客関係性といった「模倣困難なアセット」の価値が相対的に上昇している。
「ものづくりのハードルが下がるからこそ、意思決定のスタイルは熟考型からリアルタイムな即断即決型へ、そしてテクノロジーはCTO(最高技術責任者)のみの管掌ではなくCEOを含む経営全体の最重要イシューへと変化しています」と稲葉氏は強調する。
早稲田大学卒業後、新卒でリクルートに入社。国内転職事業・海外HR事業(アジア8カ国)にて、プロダクトマネジメントや事業企画等を経験した後、ファインディにジョイン。2024年より、プロダクトマネジメント室を立ち上げ、室長として、ファインディのプロダクトを横断して管掌。『Findy Team+』インド市場でのグロースにコミット後、「Findy Insights」の事業開発に従事。
[1]TIME『TIME Magazine 2025 Person of the Year: The Architects of AI: - issue dated 29/12/25』
「使われているが収益に効かない」──データが示す内向きなAI活用の限界
しかし、現状のAI活用には大きなジレンマが存在する。米マッキンゼーの調査[2]によると、生成AIの組織利用率は2年間で33%から72%へと2.2倍に急増しているものの、EBIT(利払い前・税引き前利益)の改善実感は14%から17%と、ほぼ横ばいで推移している。
このギャップの背景には、日本企業特有の「内向きの視点」があると稲葉氏は分析する。PwC Japanの調査(2024年)[3]による生成AI活用の評価指標の日米比較では、両国ともに「社員の生産性向上」への関心は高い(日本70%、米国74%)。しかし、「工数・コスト削減」という内向きの指標を重視する日本(57%)に対し、米国は「顧客満足度」(58%)という外向きの市場インパクトを重視している点が対照的だ。
さらに、総務省の『令和7年版 情報通信白書』[4]でも、日本企業は「業務効率化・人員不足の解消」への期待が高い一方、「ビジネスの拡大・新たな顧客獲得」への期待は22.7%と他国に比べて極めて低い。
「生成AIによって日常業務のスピードは劇的に向上しました。しかし、日本の新規事業開発の現場では、AIの使い道が『社内の効率化』や『コスト削減』に偏っており、その先にある顧客価値の創出やビジネス拡大へと結びついていません。これが、多くの新規事業がPoC(概念実証)の壁を超えられずに『死の谷』で撤退していく本質的な原因なのです」と稲葉氏は危機感を募らせる。
[2]McKinsey「The state of AI: How organizations are rewiring to capture value」(2024-2025)、McKinsey「State of AI trust in 2026: Shifting to the agentic era」(2026)
[3]PwC Japan「⽣成AIに関する実態調査2024 春 ⽶国との⽐較」(2024)
[4]総務省『令和7年版 情報通信白書(概要)』p.11「生成AIの活用による効果・影響(国別調査)」(2025)




