SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

注目の経営書の著者と語る

なぜ「ゆるキャラ」はイノベーションなのか──変化の予兆を捉え、行動変容を促す『概念シフト』を語る

ゲスト:一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科 准教授 永山晋氏

  • Facebook
  • X

 「顧客の潜在課題を解決する」「ペインを取り除く」など、新規事業開発やイノベーションの文脈で、当たり前のように繰り返されるこの言葉。しかし、市場に不可逆で絶大な構造変化をもたらした事例を振り返ると、必ずしも「目の前の課題解決」の延長線上にはないことがわかる。iPhoneの登場や生成AIの浸透などは、人々が気づかぬうちに常識のアップデートを迫られ、一度変わった後は二度と「以前の状態」に戻れなくなる変化だ。この不可逆な変革をもたらすメカニズムとは何か。『概念シフト なめらかに常識を変える思考法』(ダイヤモンド社)を上梓した一橋大学准教授の永山晋氏に、Biz/Zine編集部の栗原茂が、経営学・神経科学を融合させた新しいイノベーションのフレームワークとその実践論を聞いた。

  • Facebook
  • X

なぜ課題解決だけではイノベーションが起きないのか

Biz/Zine編集部 栗原茂(以下、栗原):永山先生は経営学と計算社会科学を軸に、創造性やウェルビーイング、認知変容について研究されています。著書『概念シフト なめらかに常識を変える思考法』では、従来の「課題解決型」のアプローチに対する違和感が提示されていますが、まずその研究背景からお聞かせいただけますか。

永山晋氏(以下、永山):ビジネスや研究の現場では、「顧客のペインを探せ」「課題を解決せよ」と頻繁に言われると思います。もちろん、目の前の課題に対して解決策を提供し、対価を得ることはビジネスの大前提です。しかし、社会課題や顧客課題の解決のみを至上命題することに少し違和感を持っています。

 歴史的なイノベーションの事例を振り返ると、最初は確かに特定の課題解決から始まったかもしれません。しかし、現在その事業が形成している巨大な市場や、世界規模で起きた行動変容は、当時の「課題」とはかなり遠い領域で起きていることも数多くあります。

栗原:たとえばiPhoneも、最初は「直感的な操作感」や「音楽が聴ける」という課題解決や機能拡張の側面からスタートしましたが、いまや社会インフラそのものの概念を変えてしまいました。

永山:まさにそうです。たとえば、フリマアプリが登場した当初、その価値は「不用品を手軽に売れる」という便利さだったと思います。ところが今では、服やバッグを買う時点で「リセールバリュー」を考える人が珍しくありません。その人たちにとっては、モノが「買って使い切るもの」から「一時的に利用して次に回すもの」へと大きくシフトしたといえます。

 目の前の課題解決は、大きな変化を引き起こすための「最初の小さなきっかけ」と捉えることもできる。課題解決のその先にある「誰も予期していない大きな変化」をゴールに設定する思考法が必要だと考えたのが背景です。

画像を説明するテキストなくても可
永山晋『概念シフト なめらかに常識を変える思考法』(ダイヤモンド社)

予兆を捉え、意図的に世の中の「前提」を塗り替える

栗原:『概念シフト』の視点は、ビジネスパーソンにとって、どのように役立つのでしょうか。

永山:新規事業や商品開発、組織マネジメントの場面で、「自分たちや顧客が当たり前だと思っているイメージは何か」を捉え直すのに役立つかもしれません。

 私たちが当然視している市場や価値基準も、それが唯一の合理的なあり方だから定着したとは限りません。人々が「これには価値がある」「これはこういうものだ」という認識を共有することで成り立っている面が大きい。いわば「共同幻想」に支えられているわけです。

 歴史を振り返ると分かりやすいでしょう。たとえば「子ども」は、かつて家計を支える小さな働き手と見なされていた時代がありました。それがやがて、経済的な役割とは切り離された、かけがえのない存在へとイメージを変えていきます。今日の教育産業や子ども向け市場の多くは、この概念の変化の上に成り立っています。

 組織も同じです。決まった時間に決まった場所へ通って働くという形は、工場労働の広がりとともに定着した、比較的新しい習慣にすぎません。その「オフィスは毎日通う場所」というイメージを「目的に応じて選ぶ場所」と捉え直すだけで、働き方から評価の仕組みまで、見直すべきものが変わってきます。何を価値と捉え、何を事業や仕事と見なすのか。その前提を問い直すことが、新しい事業や組織のあり方を考える出発点になります。

画像を説明するテキストなくても可
一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科 准教授 永山晋氏
1982年生まれ。広島県出身。2002年広島市立大学情報科学部休学後、音楽制作会社で働く(同大学退学)。2007年に早稲田大学商学部に編入学し、2009年に卒業。2011年に同大学院商学研究科博士後期課程に進学し、2017年に博士号(商学)を取得。早稲田大学商学学術院助教を経て、2017年法政大学経営学部講師に着任。2018年より准教授。2022年4月より現職。企業との共同研究やアドバイザリー活動にも取り組む。専門は経営学および計算社会科学。創造性、ウェルビーイング、認知や行動の変容を主な研究テーマとしている。著書に『概念シフト なめらかに常識を変える思考法』(ダイヤモンド社)。

次のページ
「概念」とは対象の細部を削ぎ落として脳内に作る主観的なイメージ

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
注目の経営書の著者と語る連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X

Special Contents

PR

Job Board

PR

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング