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『CFO思考』著者・徳成旨亮氏が語る、経営者から見たFP&A──企業価値向上に寄与する管理会計とは?

日本原価計算研究学会全国大会 特別講演レポート:株式会社ニコン 代表取締役会長 徳成旨亮氏

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 2026年8月26~28日に、立教大学を会場に開催された「日本原価計算研究学会全国大会」。最終日の28日、特別講演に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)およびニコンでCFO(最高財務責任者)を歴任し、2024年のニコンCOO(最高執行責任者)就任を経て、現在、同社で代表取締役会長を務める徳成旨亮氏が登壇した。本稿では、ベストCFOにも選出された徳成氏が語る「日本企業が直面する3つの危機感」と、それを打ち破るための「アニマルスピリッツ」、そして現場で企業価値経営を実装する「FP&A(Financial Planning & Analysis)」の役割について、セミナーの内容をレポートする。

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日本企業の経営者が直面する「3つの危機感」

 「失われた30年」を経て、グローバル市場における日本企業の相対的な存在感は著しく低下した。講演の冒頭、徳成氏は日本企業が抱える強い危機感を3つの観点から論じた。

 1つ目の危機感は、「ライバルの巨大化」である。1995年末時点の世界時価総額トップ20には日本企業が18社ランクインしていたが、2025年末時点では1社も存在しない。米国の巨大テックカンパニーやアジアの半導体大手が市場を席巻する中、日本企業は多くの業種で海外競合に圧倒的なスケール差をつけられ、市場における価格決定権すら握られているのが実情である。

 米国では企業の統合が進み過去30年間に上場企業が半減したが、日本では逆に増加した。一方で1社あたりの平均時価総額は、米国が約19倍となるなか、日本は横ばいであり、日本企業は再編を進められずスケールメリットを享受できていない。

 2つ目の危機感は、「グローバル機関投資家からの存在感消失」である。世界の主要株式インデックスであるMSCI基準では、現状、時価総額6.6兆円以上が大企業(Large Cap)、2兆円以上が中堅企業(Mid Cap)と定義される。この基準を満たす日本企業はわずか160社程度にとどまり、東証上場企業の約9割はグローバル基準では「小企業」とみなされてしまう。時価総額2兆円未満の中には日本を代表する企業も多数含まれている。グローバル投資家のレーダーに自社が映っていないという厳しい現実を直視する必要がある。

 3つ目の危機感は、「低いPBR(株価純資産倍率)と成長期待の乏しさ」である。PBR1倍割れは、「時価総額が企業の解散価値を下回っている状態」を意味する。東証の働きかけなどによりPBR1倍割れ企業の比率は改善傾向にあるものの、主要国と比較するとまだ低く、日本市場がアクティビスト(物言う株主)にとって格好の標的となっている要因のひとつとなっている。PBRはROE(自己資本収益率)とPER(株価収益率)の積に分解できるが、母国市場が縮小傾向にある日本企業にとっては、とりわけ将来の成長期待を表すPERを高めることが難しい。

 以上、3つの危機感を背景に、日本企業にはグローバルの競合先を相手にして自社の強みを生かした価値創造を行い、その成長ストーリーを資本市場に明確に発信していくことが求められている。

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株式会社ニコン 代表取締役会長 徳成旨亮(とくなり むねあき)氏
1982年三菱信託銀行入社。2007年三菱UFJフィナンシャル・グループ財務企画部長などを経て2015年グループCFOに就任。『Institutional Investor』誌の投資家投票で、日本の銀行業のベストCFOに4年連続で選出される。2020年ニコンの取締役専務執行役員CFOに就任。2023年『CFO思考』(ダイヤモンド社)を出版。2024年4月に同社代表取締役兼社長執行役員COOに昇格し、2026年代表取締役会長に就任。

「アニマルスピリッツ」と欧米型資本主義の本質

 この長年の停滞を打破するために不可欠なのが、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)で述べている「アニマルスピリッツ(血気・野性的衝動)」だと徳成氏は主張する。

 CFO時代、海外投資家から「君たち日本の経営者にはアニマルスピリッツはないのか?」と繰り返し問われたという。緻密な計算や数学的期待値だけに頼る経営では、企業活動は色あせ、やがて死滅してしまう。「何としてもこの事業を実現する」という強い熱意とビジョンこそが、企業成長の推進力となる。ケインズはその著書で、「企業経営は南極探検と大差ない」とまで述べている。

 徳成氏は、1602年に設立された世界初の株式会社であるオランダ東インド会社を引き合いに出し、「株式会社」の基本構造を解説した。株主以外のステークホルダーは労働債権や金融債権の保有者であり先に弁済されるが、株主は残余財産に対する分配権しか持たない。株主は最もリスクを取っているからこそ、経営陣を選解任する権限を持つ。この構造を正しく理解した上で、投資家から正当に資金を引きつける経営を推進することが重要な論点となる。

 同氏は、欧米の経営者が大胆にリスクを取る背景には、資本主義に対する根本的な哲学の違いが存在するという。そのDNAの萌芽は東インド会社に見られる。欧米における企業は、特定の目的(シングル・パーパス)のためにステークホルダーが集まった「プロジェクト」であり「箱」の側面が強い。今日でも、たとえば米国では企業は、社会的使命が終わり目的が果たせなくなれば清算され、財務資源や人的資源が市場に開放される。その資源を活用して新しい成長企業が生まれる経済のダイナミズムが機能している。

 一方日本においては、企業は「運命共同体」であり、雇用維持と長期存続を最優先とする傾向が強い。同氏は、デジカメ化の波の中で写真フィルム事業からヘルスケアなどへ多角化し、フィルム事業でも残存者利潤を確保している富士フイルムを例に挙げ、雇用を守るという規範とリスクを取って挑戦するアニマルスピリッツとを両立させることが、企業経営者に求められていると指摘した。

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日本型「金庫番」からグローバル基準の「CFO思考」へ

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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