15年越しの復活。タブー視された撤退事業への再挑戦
椿:本日はよろしくお願いします。まずは、もち麦の事業が生まれた背景を教えていただけますか。
清水:現在進めているもち麦の事業は、私と牧本、そして木原(取材時不在)の3人チームでコンテストに応募してスタートしたものです。
発起人の私と木原は、もともと医薬や食品の研究所でもち麦や大麦の研究開発に関わっていました。実は、ヒトの内臓脂肪が減るというもち麦の効果を世界で最初に発表した[1]のはサッポロビールなんです。
一度事業化をしたのですが、スーパーやコンビニといったレッドオーシャン市場へ一気に展開してしまい、時期尚早で事業撤退となりました。その後、ブルーオーシャンを目指して調剤薬局向けに方向転換しましたが販売展開まもなく、2009年頃にヘルスケア事業ごと撤退が決まってしまいました。
事業撤退によって研究開発のリソースは他のテーマに振り向けられ、もち麦研究を再び動かすことは容易ではありませんでした。
椿:そこからどのようにして復活へ向かったのでしょうか。
清水:撤退後も木原たち原料開発研究所がもち麦の育種をひっそり続けていました。世の中で健康志向が盛り上がっているのに、体に良い独自素材を持っている私たちが手を出さないのはおかしいという思いがありました。そんなとき、新規事業制度の募集があり、木原に「今出さないか」と持ちかけたのが始まりです。
椿:当時関わっていた方々は相当悔しい思いをされたのでしょうね。
清水:はい。事業が打ち切られて水面下に沈むしかありませんでしたが、私たちは「絶対に体に良いものだから残さないと勿体ない」とずっと感じていました。あのまま終わらせたくなかったのです。
事務局も驚く熱量!カナダからオンラインで誓った再起
椿:牧本さんはどのように合流されたのですか。
牧本:私は当時入社6年目でビール大麦の品種開発をしていました。水面下でもち麦の研究が動いていることは以前から把握しており、その素材がビジネスに活かされていないことが非常に勿体ないという気持ちをずっと抱いていたんです。事業創造プログラム「GRIP」の募集を知り、まずは木原さんに声をかけ、清水さんに繋いでいただき、3人で応募を決めました。当時私はビール大麦の育種でカナダに出張中だったため、オンライン会議で決起しました。
椿:以前失敗している事業ということで、周囲からの反対はありませんでしたか?
牧本:原料部門からは「以前失敗したのに本当にやるの?」と手放しで応援してくれる雰囲気ではありませんでした。ただ、応募段階では所属長の許可が不要な制度だったので、まずは挑戦して世の中にもち麦のニーズがあることを示そうと考えました。
児島:当時の私は「GRIP」の事務局としてこのプランを見ていましたが、お二人の熱量は圧倒的でした。会社がせっかく持っている独自の遺伝資源を眠らせておくのは勿体ないですし、自社アセットを活用できる点は大きな強みでした。過去に撤退した事業であっても、再チャレンジしてもらうのに非常に良いタイミングだと事務局側も感じていたんです。
清水:研究部門には、かつて撤退したからやめろと言ってきた人たちもいたので、少し見返してやりたい気持ちもありました。事務局の期待も感じていましたし「絶対にこのコンテストで勝ち抜き、もち麦に再挑戦するんだ」と強く思っていました。
[1]「Effect of high beta-glucan barley on serum cholesterol concentrations and visceral fat area in Japanese men--a randomized, double-blinded, placebo-controlled trial」(Plant Foods Hum Nutr. 2008 Mar;63(1):21-5.)



