データを予測に生かす、富士通の「未来予測型経営」への転換
池側千絵氏(以下、池側):富士通は従来の製造業から、ビジネスモデルを大きく転換し、営業利益率やROEなどの財務指標を劇的に改善されています。まずは、財務・資本戦略とその中で財務経理部門が果たしてきた役割についてお聞かせください。
益田良夫氏(以下、益田):富士通はこれまで、ハードウェア中心のビジネスからサービスソリューションへと事業ポートフォリオを大きく変革してきました。ベースとなるキャッシュ・フロー創出力を高め、それを成長投資と株主還元へ最適に配分するキャピタルアロケーションの循環を回しています。かつて5%未満に低迷していた営業利益率は、サービスシフトや資本効率の向上により大きく改善し、今期は12%台を見込むまでに至りました。
こうした経営目標の達成を裏から支え、成果を確実なものにするのがファイナンスのミッションです。私たちは「データをベースに意思決定を行う基盤」を構築し、過去の数字を追いかける「バックミラー経営」から、データを予測に生かす「未来予測型経営」への転換を強力に推し進めてきました。
池側:経営の舵取りを「過去の集計」から「未来の予測」へシフトさせるために、具体的にどのようなステップを踏まれたのでしょうか。
益田:私が2018年に米国駐在から戻ってきた際、最初に作った経営ダッシュボードは過去の月次決算データが中心で、経営陣から「過去のデータだけでは使えない」という指摘を受けました。そこで、意思決定に本当に必要なリアルタイムかつ未来の情報を取り出すため、まずはCRM(顧客関係管理)の商談情報統合から手をつけることにしたのです。
1996年入社。事業部門や海外関係会社(富士通米国 Finance Director)の経理、グループ経営管理部長、本社経理部長などを歴任し、2024年4月より現職。全社DXプロジェクト「フジトラ」の立ち上げやデータ統合基盤の構築をリード。京都大学経営管理大学院博士課程に在学し、社内での実践知を体系化して実務へ還元する研究も行っている。
データ統合基盤とOne ERP+で実現する、二刀流のアプローチによるリアルタイム経営
池側:大企業におけるデータ基盤の統合は、基幹システム(ERP)の刷新に長期間かかることがボトルネックになりがちです。富士通ではどのようにスピード感をもって進められたのですか。
益田:富士通では全社で「One ERP+(S/4HANA)」の導入を進めていますが、完成までに何年も待つわけにはいきません。そこで私たちは「二刀流のアプローチ」を採りました。10年かけて100点を目指す基幹システムの構築と並行して、Palantir(パランティア)社のデータ統合基盤を活用し、3〜6ヵ月で70点の完成度でも良いからバラバラのデータを繋ぎ合わせて走らせる手法をとったのです。
田中大輔氏(以下、田中):私は元々10年間システムエンジニアとしてSAPや自社ERPの導入に携わっていましたが、ファイナンス部門に異動し、このデータ統合プロジェクトの専任部隊として立ち上げから関わりました。国内ファイナンスメンバーの約半数以上がPalantirのアカウントを持ち、自分たちでデータ集計や分析アプリを構築できる体制を整えています。
2010年入社。システムエンジニアとして製造業向けの生産管理・会計領域やタイ拠点でのERPコンサルティングに従事した後、財務経理本部のDX推進担当に着任。データ統合基盤の構築やAIを活用した受注・損益予測モデルの開発・運用を主導し、ファイナンスのデジタル変革を牽引する。
池側:現場のファイナンス担当者が自らデータ基盤を使いこなしているのですね。
田中:はい。以前は150社以上のグループ会社からエクセルでデータを回収し、バケツリレーのように手動で集計していたため、決算報告までに1ヵ月以上のリードタイムがかかっていました。現在は単一のデータ基盤からリアルタイムに明細データを収集・分析できるため、会議の場でもダッシュボードを見ながら「今週何が起きて数値が変動したのか」をその場でドリルダウンして追求できるようになっています。



