4つのドライバーからみるNVIDIAの「概念シフト」
栗原:4つのドライバーが上手く機能し、市場の概念シフトに成功している先進的な企業事例はありますか。
永山:少し大きな話になりますが、NVIDIAのGPUをめぐる変化は興味深いと思います。GPUは、もともとゲームなどの画像描画を支える半導体として知られていました。それが科学技術計算やAI開発にも使われるようになり、「人工知能の計算基盤」としてイメージが広がっていると思います。
注目したいのは、NVIDIAの製品の競争力や技術力そのものだけでなく、「何に価値を置き、どこに資源を投じるのか」という独特の世界観がどのように形づくられているかです。
たとえば、「AGI(汎用人工知能)」のように将来像を示す記号が、計算基盤の整備と結びつけて語られています。さらに、米国では、一部の先端GPUが安全保障に関わる輸出管理の対象とされてきました。これはNVIDIA一社だけの取り組みではなく、研究者や企業、政府などとの関わりの中で生じている変化です。その全体を見ていくと、概念シフトの4つのドライバーの働きが見えてきます。

まず、「環境構築」でいえば、NVIDIAはGPUという半導体に加えて、その計算能力を活用するための開発基盤であるCUDAを提供しています。半導体を提供するだけでなく、研究者や開発者が、その能力を使って新しいものを生み出せる環境を整えているわけです。
「記号構築」で注目したいのが、「GPU」という言葉そのものです。たとえば、AIの計算基盤の整備計画が、確保するGPUの数によって説明されることがあります。ここではGPUが、単なる半導体の名称ではなく、AI開発を支える計算資源を具体的にイメージし、共有するための記号として働いていると捉えられます。
「行動誘導」について考えると、開発や投資に意味を与えるナラティブに注目できます。その一つの土台となるのが、モデルの規模やデータ量、計算量と性能との関係を示す「スケーリング則」です。NVIDIA自身も、この知見を計算資源の拡張の必要性と結びつけて説明しています。知見そのものというより、それをもとに「計算資源を拡大することで、より高性能なAIを目指せる」と語ることが、投資を正当化し、行動を方向づけるナラティブになると捉えられます。
最後に「秩序構築」です。NVIDIAは、AIを社会としてどう扱うかという議論にも関わっています。米政府の輸出管理規制に働きかけるなど、ルールのあり方に意見を示しています。また、生成AIの性能を示すベンチマークのように、企業や研究者の間で「何をよい性能とみなすか」という評価基準が共有されることも、秩序構築の一部と捉えられます。
これはAI企業や各国の政府など、多くのプレイヤーが関わる大きな事例ですが、概念シフトは「ゆるキャラ」や「サウナ」のような身近な題材でも考えることができます。
いずれにせよ、概念シフトを考えるには、自社の製品や競争力だけでなく、さまざまなプレイヤーの行動、世の中で生まれる記号やナラティブ、技術や制度、社会の変化を捉えることが大切です。その中に自社をどう位置づけ、どのように関わっていくのかという発想が必要だと思います。



