糸井事務所が考える「クリエイティビティの3つの輪」
コピーライター糸井重里氏によって立ち上げられた「ほぼ日刊イトイ新聞」は、98年6月にスタートした。読んで楽しめるもの、読者投稿などさまざまな機能をもとに日々情報が更新されているサイトで、言いまつがいなどの日常の様子やさまざまな方へのインタビューやコラムが掲載されている。99年からは「ほぼ日手帳」などの生活関連商品の開発なども行っており、「ほぼ日刊イトイ新聞」を含む東京糸井重里事務所は、いまでは売上30億を超えスタッフ60名を超えるほどの企業へと成長するまでとなった。
当初から、このサイトは糸井氏いわく「まず銀座通をつくる、そうしたら、自動販売機を置いても稼げる」というコンセプトを掲げてスタートした。その根底にあるのは、コンテンツに対して「人は、何がうれしいか」を追求することだと篠田氏は語る。その一つがサイトのデザインにも現れている。
ほぼ日は、デザインをページ毎にすべて変えていて、読み物によって雰囲気を変えているんです。すべての人が満足し、理解するものを企画に落としこむために、それぞれの企画にあったデザインを社内ですべて制作しています。
人が喜ぶためのコンテンツひとつひとつがアイデアの塊であるとし、作り出したコンテンツを少しでも多くの人に楽しんでもらうことを一番の価値として見据えている。
新しいものを生み出し、そこに価値を付加させるために必要な要素とはなにか。篠田氏は「実行」「動機」「集合」が合わさった「クリエイティビティの3つの輪」が大切だと語る。
集合とはコンテンツを通してさまざまな人が集まる場を作ること。動機は人はどんなことをして楽しむのか、自分がおもしろいと思うことや違和感を考えることです。例えば、椅子に関する企画を考えるとき、「座るってどんなことだろう」ということをとことん考え、アイデアを練って自問自答し企画に落としこむようにしています。更に言えば、モノがなくてもコピーやポスターができるくらいまで煮詰めることが大事です。そうすれば、企画が具体的に見えてきます。そして実際の形に落としこむ実行です。ここで、デザインや製品に対してどれだけこだわりを持って取り組めるかが重要になってきます
これらは分業するのではなく、スタッフ一人一人が考え、この3つをそれぞれが有機的につなげ互いに影響しあっていくのだという。企画の種を糸井氏のSNSなどを通じて市場の反応などを伺いながら企画づくりの参考にしていることもしばしば。こうした企画のためのクリエイティビティは、社会とつながっていることを常に求められていると篠田氏は語る。
ニッチやこだわりを捨てて、マスでいくこと。これはつねに糸井が言っていることです。そのために、あらゆる企画は社会に向かって開いているという自覚をもたなければいけません。社会に向かって開いていなければ、ひとりよがりで人に喜ばれません。あらゆる人が根っこで満足するものを作らなければいけません
もちろん、一般向けだからといって安価であるというわけではない。企画の根幹であるコンセプトを大事にした結果、生産台数が少なかったりすることもある。常に新しいユーザー獲得に向けて、さまざまなクリエーターや企業とコラボするための企画をスタッフ全員が練っている。もちろん、CFOという管理部門である篠田氏も同様だ。篠田氏自身がもつ関係性や得意分野をいかし、新しいユーザー獲得のための活動は欠かせないそうだ。