システム・シンキングの中核「因果ループ図」とは?
因果ループ図は、自己強化ループと均衡ループによって成立する
因果ループ図とは、システムを構成する要素の相互作用(因果関係)を、フィードバックループの組合せによって描写したものです。各々の因果ループは、自己強化ループ(R)と均衡ループ(B)に分類されます。ある要素(変数)の値の増減が、矢印によって向けられた要素(変数)の値の増減と同方向に動く場合は「+」、逆方向に動く場合は「‐」を記述します。同一のループ内に「‐」の数が奇数ある場合、その因果ループは均衡ループ(B)であり、それ以外は自己強化ループ(R)です(図3)。
図の左半分は、出生率の増加(減少)が人口の増加(減少)の原因となり、その人口の増加(減少)が出生率の増加(減少)の原因となるという自己強化ループ(R)を表しています。一方、図の右半分は、死亡率の増加(減少)が人口の減少(増加)の原因となり、その人口の減少(増加)が死亡率の増加(減少)の原因となるという均衡ループ(B)を表しています。
さて、「eビジネスモデルの理解を得るための因果ループの活用」(参考文献)という文献をベースとして話を進めていきましょう。
ストーリーとしてのビジネスモデルを検証する
ビジネスモデルに関する第3回目の記事で、失敗するビジネスモデルは、「ストーリー・テスト」(話の筋道が通っているか)、あるいは「ナンバー・テスト」(収支が合っているか)のどちらかに合格しないものである、とお話ししました。因果ループの仮説を立てることにより、ビジネスモデルの動的な側面とその有効性の分析プロセスについて考えていくことにします。
下図は、6つの因果ループから構成されるビジネスモデルの全体像を示したものです(図4)。各々の因果ループを詳細に見ていくことにしましょう。
ビジネスモデルを因果ループ図で表現する1
繁栄ループ
1つ目は、「繁栄ループ」と呼ばれる自己強化ループであり、ビジネスモデルにおける中核となるシナリオです(図5)。このシナリオは、以下の通りです。
「ビジネスモデルにおける価値生成の能力であるコンピタンスが増えれば、適切なマネジメントによりオファー(プロダクトやサービス)の向上を引き起こす。このオファーの向上は、ターゲット顧客に対する価値提案全体の向上を引き起こす。結果として、高い価値提案が誘因となってターゲット顧客の母集団が増加する。この増加により収益の増加を引き起こし、結果として利益の増加に帰結する。利益の増加の一部は、リソースの増強に割当てられる。そのリソースの増強はさらなるコンピタンスの向上をもたらす」
このシナリオは、ストーリーとしてのビジネスモデルの最も好ましい形ですね。
ビジネスモデルを因果ループ図で表現する2
停滞ループ
2つ目は、「停滞ループ」と呼ばれる均衡ループであり、1つ目の繁栄ループに潜む罠といえるかもしれません(図6)。このシナリオは、以下の通りです。
「価値生成能力としてのコンピタンスの増加が、オファー(プロダクトやサービスの質や量)を増やし、価値提案全体の向上を引き起こすというシナリオまでは繁栄ループと同じである。ところが、その価値提案がターゲット顧客に認識されてその母集団が増える前にコスト増を招いてしまい、利益を圧迫してしまう。結果として、利益に貢献すべきリソースとコンピタンスが減少する」
いわゆる黒字倒産というのは、このケースの最悪のシナリオかもしれません。