調査レポートでは扱いづらい、課題解決のための“感覚を測る”という挑戦
仲山進也氏(以下、敬称略):万丈さんが発信したレポートの中でも特に注目されたのが、2015年に発行した『官能都市 ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング』ですよね。これはどういうふうに生まれたんですか?
島原万丈氏(以下、敬称略):レポートを作る時はいつも、外部スタッフを集めてチームを作って、毎回3時間くらい「最近何やってた?」とか「あのニュースどう思う?」みたいに、だらだらとアテもなく雑談していく中からテーマを見つけていくんですが、『官能都市~』のテーマを決めた時は、オリンピックに向けて東京の再開発がすごい勢いで進んでいた時で。あちこちで似たような高層ビル建設が始まって「このままじゃ、街がつまらなくなるよね」という課題が見えてきたんです。
といっても、住宅ではなく都市をテーマとして扱うのは初めてだったので、まったくの素人として調査研究は始まりました。住宅と都市って近いようで学問的領域も監督官庁も別物なので、どこから手を付けていいか分からない。だからまず主要な都市論を読みまくるんだけど、こっちは素人なんだから既に語り尽くされている都市論を上塗りしてもしょうがないなと。もともと文系の僕は、工学系の知識も持たないから、マーケティング発想を貫こうと決めました。それで決まった路線が「今の都市再開発にはエロースが足りない」。ロゴス的発想の工学系の人たちが絶対に取り入れないアプローチで行こうと決めた。
仲山:斬新。ほかの人がやっていない組み合わせですよね。万丈さんがつくられた「センシュアス指標」の調査項目には、「お寺や神社にお参りをした」「平日の昼間から外で酒を飲んだ」「地元でとれる食材を使った料理を食べた」「通りで遊ぶ子供たちの声を聞いた」みたいなのがあって、おもしろいなと。
島原:測定項目が寸法のような数値で出せるものではなくて、「感覚を測る」という挑戦です。寸法測定だと、1メートルはいつどこで測っても1メートルであり、揺るぎない客観評価になるけれど、「どのくらい心地いいか」という感覚は主観的だし安定性がないので測定しにくい。今日「心地いい」と言っても、同じ場所で明日は「心地よくない」かもしれない。
どうやって測ろうかと議論をしている中で出てきたのが「行動を測る」という手法だったんです。例えば、「路上でキスしたことがあるか」という質問に対して、「はい・いいえ」で答えてもらうというふうに、感情にひもづく行動の経験を測定するという方法を試みたんです。経験の有無は自己申告ながら客観的な事実データとして扱えるので安定している。するとその評価指標がウケて、新書として出版されるまでになったんです。