トップの孤独に寄り添うミドルが“組織の閉塞感”を打破する──直線と曲線が交差する場での翻訳者

埼玉大学 准教授 宇田川元一氏 × 株式会社アクション・デザイン 代表取締役 加藤 雅則氏:後編

 ティール組織、ホラクラシー等 、近年組織開発に関連するワードを目にすることが増えている。企業のイノベーションは今日の日本企業の大きな課題とも言われる。多くの日本企業が過去最高益を記録するなかで、こういったことに関心を持つ人が多いのは、おそらく「今はいい、しかしこのままでは将来的には立ち行かなくなる」という危機感の表れだろう。日本企業は今後どうしていったらいいのだろうか。イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行う宇田川元一氏(埼玉大学 准教授)とコーチングや対話型の組織開発により日本の組織を活性化するという課題に長く取り組み、『組織は変われるか』等の著作がある加藤雅則氏が語り合った。内容を2回に分けてお届けする。

[公開日]

[語り手] 加藤 雅則 宇田川 元一 [取材・構成] フェリックス清香 [写] 長谷川 梓 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 事業開発 企業戦略 ナラティヴ・アプローチ 学習理論

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“3つの部族”という現在の立ち位置は「偶然の産物」──リチャード・ローティや小倉昌男から学べること

宇田川 元一氏(埼玉大学大学院 人文社会科学研究科 准教授、以下敬称略)前回、加藤さんは「今、多くの企業で、1.バブルを知っている上の人たち、2.就職氷河期に就職活動を行ったミドル、3.ゆとり世代と言われる若手、といった3つの部族に分断しているのが気になる」とおっしゃっていましたよね。

今、互いに仕事上の表の顔しか見せ合っていないせいもあって、何かあると他罰的・他責的に「あの人たちがわかってくれないから」と誰かを責めてしまう。そして、おそらく若手やミドルのなかには「割りを食っているな」と思っている人ってたくさんいると思うんですよ。

加藤 雅則氏(株式会社アクション・デザイン 代表取締役、以下敬称略):そうですね。相手のことを多面的に知らないから、相手のことを知らずに批判したりしてしまう状況はありますよね。

宇田川:その点をちょっと話したいのですが、僕の考えのベースとしている研究者の一人にリチャード・ローティ(Richard McKay Rorty)という哲学者がいます。彼は有名な著書『Contingency, Irony, and Solidarity』(邦訳『偶然性・アイロニー・連帯――リベラル・ユートピアの可能性』)のなかで、自分が裕福な家の出であるとか、右翼である、左翼であるというのは偶然でしかないと言っているんです。

偶然性・アイロニー・連帯――リベラル・ユートピアの可能性

加藤:今までの偶発的な出会いの結果で立ち位置が決まったにすぎないというわけですね。

宇田川:つまり、どんな人間でも偏っているんです。その偏りを一度アイロニカルに捉えて相対化せよ、そこにポストモダニズムの可能性があるというのです。現実は多面的であるというんです。

加藤:答えは一つとは限らず、事実は一つとは限らないということですね。

宇田川:その上で彼は、想像力を広げて「連帯」しなければならない、そうしなければ我々の社会は決して良くならないというんですよ。「連帯」という言葉に関しては、社会福祉法人べてるの家の創立者の向谷地生良さんが「自分も同じ立場だったら、同じように考えたり感じたりする、かもしれないことを認めること」とおっしゃっていますが、そう考えるとわかりやすいですよね。立場の違いって偶然にしかすぎないんですから。

加藤:大乗仏教的にいえばコンパッション、慈悲ですね。あなたのなかに私を見る、私はあなただったかもしれないし、あなたは私だったかもしれないというような慈悲。信頼とか政治的な安心というレベルではなくて、自分もああなり得る、あなたの立場だったらそうなるかもしれないというような発想で思いやることが大事だということですよね。

宇田川:なかなか多面的に知り合うことができないから難しいのですけれどね。でも多面的に知ることで、得るものは大きいと思います。この何年かで読んだ本の中で特に興味深かった『小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの』という本があります。小倉昌男さんはビジョナリーかつストラテジストで具現的で、僕が非常に尊敬する経営者の一人。ですが、実はご家庭で大変な困難を抱えていたと描かれていました。奥さんを亡くした後にとある女性に求婚することで悩むくだりも出てきます。そういった姿を読んだ時に、僕の中では小倉さんという存在が非常に愛おしい存在に変わったんです。

小倉昌男 祈りと経営: ヤマト「宅急便の父」が闘っていたもの

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