人の“ふわっと”した認識に、きっちりとしたブランド意識を持って向き合う
パーセプションフローとは、人々の認識の中で属性順位に変化を起こすためのコミュニケーションの設計図である。顧客が購入に至るプロセスをまとめるカスタマージャーニーと似ているが、カスタマージャーニーは顧客の「行動」を時系列で把握することで、顧客に適切な場所とタイミングで適切な内容を伝えるようにするためのものである。対してパーセプションフローは、顧客の「認識(パーセプション)」が変化するプロセスを把握することで、顧客に適切なコミュニケーションをとろうとするためのものだ。
人は、聞く価値があると“思った”ことを聞き、魅力的だと“思った”ものを買い、経験を通して製品機能を“認識”し、認識された機能やメリットを“評価”するものだと音部氏は説明する。これらはすべて「思っていること」「認識」であり、ある意味“ふわっと”した感覚的なものである。その「認識」に変化を与えるためには、前提として、きちんと自社のブランドを定義することが必要だ。音部氏は、ブランドの定義書とパーセプションフロー・モデルをマーケティング業務の2つの重要な設計図としている。しかし、そもそもブランドとは何だろうか。
「『ブランドは意味である』と定義すると理解しやすいでしょう。ここで言う『意味』には大義や人格、価値観、消費者にとってのベネフィットも入ってきます」と音部氏は話す。ウイスキーメーカーを例にブランドを考えるとわかりやすい。ウイスキーメーカーにとってウイスキーは大義である。消費者にとっての「日本のウイスキーもなかなかおいしい」というベネフィットが含まれるし、品切れが続けば「なかなかお目にかかれない」といったイメージを持つことにもなる。人格としては、「いいウイスキーを作るために、労を惜しまず一途に一生懸命」といった価値観をもつ職人が浮かぶであろう。ウイスキーは仕込んでから販売可能になるまでに10年、20年とかかるが、ウイスキーメーカーにとって「大義」という存在であるがゆえに、利益だけを考えて増産・減産を検討することはない。
ここで今回一緒に講座を担当した荻野氏がインフルエンサーをブランドのイメージ作りに起用するのは、顔のない商品に人格を与えるのが難しいからではないかという補足的な指摘があった。音部氏は「インフルエンサーは特定分野において価値観をしっかりと打ち出していて、人格もあります。インフルエンサーの顔が見えるために信頼をしやすいということもあります。ブランドの人格を理解しやすくなるので、起用するのでしょう」と荻野氏の指摘を肯定した。
この日の講座に参加したのはメーカーでブランドの管理をしている人や、マーケティング部に所属する人、ブランド広告の代理店で働く人、企業向けのコンサルティングをしている人など、マーケティング関連の仕事をしている20名ほどの人々。参加者の中からは、
ターゲットごとにブランドを変えることは有効なのでしょうか?
という質問が上がった。
ブランドは大義です。大義をターゲットに合わせて変えることはあり得るでしょうか。
と音部氏は答えて、考え方の問題点を指摘した。