ジョブの細分化からもイノベーションは生まれる──“過充足”の中に“未充足”のジョブを見つけるODIプロセス
荻野 英希氏(以下、敬称略):クリステンセン教授は『ジョブ理論』において、“破壊理論を適用すべきではない多くの現象や状況を説明するのに使われてきた”と、その誤用について書かれていますね。
津田 真吾氏(以下、敬称略):同じような誤解として、「イノベーションとは意外なところにあり、変わることである」という思い込みがありますね。イノベーションは、ジョブの細分化が元になっていることも多いのです。
荻野:ブランドに関しても、『The Origin of Brands』(アル・ライズ、ローラ・ライズ、2004年)という本の中で、「ブランドはサブカテゴリを狙うことによって、いくらでもブランドを作ることができる」と語られています。また個人的な経験としても、私はウェブデザイナーからキャリアをスタートしたのですが、「ブランドサイトを専門にしています」と名乗ると、そのようなお仕事が集まってきました。これは、デザイナーという仕事の細分化をしたからです。
津田:ジョブのサブカテゴリ化の例を挙げると、スタートアップや中小企業をターゲットにしたクラウド型の会計システムがありますね。あのサービスは無料だからではなく、最低限の会計をシンプルに実現してくれるから雇用されているんです。
荻野:ジョブのサブカテゴリ化には、アウトカム・ドリブン・イノベーション(ODI)のプロセスが使えますよね。
津田:まさにそうですね。ODIとは、アウトカム(成果)をヒアリングすることでアンメット(未充足)なニーズを導き、そこから新しいジョブを見つけるというものです。クリステンセンのジョブ理論」が影響を受けたとされる、アンソニー・W・アルウィック氏のイノベーションプロセスですね。
荻野:津田さんによるODIの解説記事では、“アンメットニーズ起点”のイノベーションプロセス「ジョブ・ニーズフレームワーク」を書籍から引用し解説されていました。具体的にどのようなものでしょうか。
津田:「ジョブ・ニーズフレームワーク」とは、普遍的な「機能的ジョブ(〜がしたい)」を中核にして、周辺のジョブや感情的ジョブ、消費する上でのジョブを挙げると同時に、顧客がジョブをどのように解決したいのかという「期待アウトカム」があるのが特徴です。機能的ジョブは普遍的であり、地域性もない。そこから顧客の状況に応じて、ジョブを解決するためのステップごとにブレークダウンしたステップを用い、ジョブを洗い出すことを可能とします。
荻野:50から150の期待アウトカムですか。結構、ここからの絞り込みが大変そうですね。
津田:数多くのジョブが抽出できると、その中からビジネスとして有望な機会を選択するための「機会マトリックスの4象限」が使い勝手がよいツールだと、ODIでは紹介されていますね。私たちは全社的な戦略や、既存ビジネスとのシナジーなども考慮します。