“ちょっと考えてみて”と呼ばれ、試しながら方程式を作り、“会社の潮流”に委ね、新たなゼロイチを作り続ける
仲山進也氏(以下、敬称略):戸村さんの仕事のスタイルについて聞かせてください。プロジェクトの立ち上げはひとりからスタートすることが多いですか?
戸村朝子氏(以下、敬称略):「ちょっと考えてみて」と言われる時はいつもひとりですね。自分の中では方程式を立てるような作業だと思っていて、XYZという条件がある時に、それをどんな方程式に組み立てると皆にとって有意義なものになるかを考える。
仲山:価値を生み出す組み合わせをつくる役割ですね。
戸村:そうです。しかも、その方程式を導き出すためにできるだけ小さく回していくんですよ。会社にとってそれほど大きな失敗にならない程度で試してみて、「大丈夫そうだね。確かにこの方程式、成り立つね」という反応を得られて初めて、人を付けてもらったり、よりインパクトを生むようなターゲットを作らせてもらったりする。この順序を大事にしています。で、本格的に盛り上がってきた時には、私はもうそこにはいない。
仲山:もう次のプロジェクトへ行っちゃってるから。
戸村:なんとなく“会社の潮流”の中で運ばれていくんですよね。手元の仕事が「大体仕上がってきたな」という時に決まって、「こういうお題がうっすらとあるんだけど」と召喚されて。どうなるかわからないけれどチャレンジさせる、という“期待値の余白”が多い組織であることがソニーという会社の魅力でもあるなと思いますね。
仲山:社内のいろんな人から声が掛かる感じですか?
戸村:部署を超えて社内からいろんな相談は受けますね。担当領域から離れている分野なのに「これってどうにかできないかな?」と技術のプロトタイプを持ってきたり、手ぶらのアイディアレベルの相談だったり、まちまちですけど。それに対応しているうちに、私がこういう人だというのが徐々に伝わるみたいで、またつながる人が増えていくような。それが結果的に“呼ばれるキャリア”につながっているのかもしれませんね。
仲山:手を挙げて異動希望、ということはなかったと。
戸村:社内での“転職のような体験”はさせてもらえましたね。ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの場合は本社がロサンゼルスにあるので、ほぼ外資系のカルチャーでした。「あなたのタスクは3ヵ月以内にこれだけの達成を目指すことです」と明確に決められていたので、ロケットスタートでした。
かたや、ソニー・ミュージック系のアニプレックスでははじめから急かされることはなくて、まず現場で仲間に入るところから時間かけることができました。幕張メッセや国際展示場でコミケなどのイベントがあれば、手伝いにいってビラ配りを一緒にやったり、長蛇の列の警備ではお客様から怒鳴られたり。配信ビジネスを組み立てる前段階の準備として、「まず体感しなさい」というメッセージなのだと理解していました。