リクルート時代に、言語化したものをビジュアルで伝えることの重要性に気づいた
──増村さんは2015年にアート・アンド・ロジックを立ち上げるまで、どのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか?
増村岳史氏(アート・アンド・ロジック株式会社 取締役社長、以下敬称略):私のキャリアは、リクルートでマーケティングの仕事をしたところからスタートしました。まだ“インターネット前夜”で、色々な情報誌の創刊が相次いだ時代です。私はそれらの中で『ケイコとマナブ』と『ガテン』のマーケティング・プロモーションの担当をしました。マーケティングの企画を考えて代理店さんやデザイナーさんと一緒にクリエイティブに落とし込むのですが、そこで「言語をどうやって画像にするのか」ということがすごく重要だと感じました。
その後、営業を経験し当時リクルートの子会社だったメディアファクトリーに行き、映画の製作委員会の仕事や音楽、書籍などエンターテイメントに関わる仕事をしました。その時もやはり、言語化したことを画像や映像にすることで高度なコミュニケーションを図ることの重要性を痛感したんです。
おそらく当時は日本中の会社がそうだったのでしょうが、会社ではロジカル・シンキングが重視され、「それは論理的に正しいのか」などとよく言われました。もちろん論理的思考は重要ですし私も訓練されました。けれど、伝えたいことをクリエイティブに落とし込むマーケティングの仕事は、論理だけでは片付かないものだと感じていました。
──感性の重要性に早くから気づいていたのですね。
増村:今でこそ、グラフィック・ファシリテーションやグラフィック・レコーディングなど、文字だけでなく絵や図で伝えることがブームになっていますが、私は新人の頃からそういうノートのとり方をしていました。周りの人からは「変わってるね」と言われましたけれど、言語と画像で記憶すると後から思い出しやすいんですよね。
今考えると、左脳と右脳を両方活用するというのを自然にやっていた。それは芸術家が多い家系に育ったことが影響していると思います。父親は洋画家で、大叔父2人が漆芸の人間国宝なんです。母方にもテレビ局に勤める叔父が3人もいたりして、アートやメディアが身近な家庭で育ちました。そうすると、小さい頃からほかの子供たちと色の感覚が違うと感じるようなことがあって。赤という色ひとつとっても、日本で目に触れるのは寺社仏閣の朱色が多いのですが、僕は父の絵を観ていたので赤というとヨーロッパの赤、ワインレッドなんです。そういう点で周りと話が合わないことが多かったのですが、仕事で出会うデザイナーさんとはトントン拍子にコミュニケーションが取れましたね。