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競争優位が「瞬時に崩れ去る」時代の戦略書

『競争優位の終焉』

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“例外的成長企業”が実践する「一時的競争優位」とは?

 まず本書は約4800社のグローバル大手企業の中から、2000年から2009年までの間、純利益において世界のGDP成長率より高い5%以上の継続的成長を続けられた「例外的成長企業」を選出することから始まります。まず驚くことは、その条件を満たす企業は国籍も多様で、かつ業界もIT、インフラ、銀行、飲料など多岐に渡っており、世界中で10社しかないという結果になりました。また、我々日本人にとって一見この手の調査結果リストを素直に受け入れるのが難しく感じてしまうのは、日常生活やビジネスにおいて、これらのグローバル企業との接点が少なく、身近に感じられない点があるように思います。

 しかし、本書の提言の根拠となっている「例外的成長企業」が共通して持つものとして抽出されたエッセンスは、どれも短期的な勝ちパターンではなく、経営思想を反映した“文化”であり、プロセスとして構築してきた“体質”であるため、多くの企業が共通に学ぶことができる教訓になっていると考えます。

 まずシナリオ1においては、継続的に変化し続ける組織であるために、“安定性”と“機動性”という対立する要素のバランスをとり、両立させることが重要だと述べられています。

安定性の源泉

  1. 野望
  2. アイデンティティーと文化
  3. 人員配置、そして人材開発
  4. 戦略とリーダーシップ
  5. 安定した関係

機動性(アジリティー)の源泉

  1. 痛みを伴わない小さな変革を重ねる
  2. 予算編成で資源の抱え込みを許さない
  3. 柔軟性
  4. イノベーションを本業としてとらえる
  5. オプション志向で市場を開拓する

 一時的な競争優位を構築してきた企業は共通して、古い優位性から絶えずリソースを引き上げ、新たな優位性の開発に投資するというパターンを繰り返してきています。それを実行するには、「安定性の源泉」だけでなく「機動性の源泉」も実践し、その双方を途方もないレベルで実現しているというのが著者の強い主張になります。

 そしてこの対立する要素はお互い強い依存関係にあります。本調査が導いた結論は、企業の価値観、リーダーシップ、顧客との結びつき、人材育成などの「ソフト面」が高いレベルで実現しているからこそ、現状を革新し、現状に挑戦するという取り組みを生み出し、双方に良い影響を及ぼしあう「循環ネットワーク」が確立されるとしています。これは、日本的な企業文化との親和性が高く、人の行動科学的な観点においても納得感の高いものではないでしょうか。

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「一時的な競争優位」の構築―イノベーションの習熟

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この記事の著者

津嶋 辰郎(ツシマ タツロウ)

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