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『繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 』第2章 全文公開【前編】

クレイトン・M クリステンセン 著 / パーパーコリンズ・ジャパン 刊

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効率化イノベーション

 効率化イノベーションは、名前からも想像のつくとおり、企業がより少ない資源でより多くのことをおこなえるようにするイノベーションである。つまり、基本のビジネスモデルやそのプロダクトがターゲットにする顧客は同じままで、企業が既存の資源および新たに獲得した資源をぎりぎりまで活用できるようにするのだ。業界の競争が激しさを増すなか、効率化イノベーションは企業の成長力を高めるのに不可欠である。このイノベーションの典型的な姿として「プロセス」の変革が挙げられる。プロダクトをどのようにつくるのか、そのつくり方に着目するのだ。効率化イノベーションを進める企業は利益率が上がり、とくに重要なこととしてキャッシュフローが改善する。

 効率化イノベーションはどの業界およびどの組織でも、収益性の改善と既存顧客の維持の重要な手段として実施されている。ただし効率化イノベーションは組織の生産性には望ましいことであっても、既存従業員にとっては必ずしも喜ばしいとは限らない。たとえば、効率化イノベーションの重要な要素のひとつであるアウトソーシングの結果、ある工場の閉鎖/移転が発生したとしよう。だが、この効率化イノベーション自体が新たな職を生むとは考えにくい。

 資源採取企業について考えてみよう。この業界は効率化イノベーションへの投資で長く栄えてきた。採取し加工する石油、ガス、金、ダイヤモンドなど多くの天然資源もまた商品なので、同業界で働くマネジャーの誰もが効率を高め、コストを下げ、キャッシュフローを改善する方法を探している。巨大な資源採取産業のある国を見ればわかるとおり、資源の採取量が増えたからといってその分、雇用が継続的に生み出されるわけではない。

 たとえばアメリカでは、1980年、石油・ガス採取業界でおよそ22万人が雇用され、生産量は日量8600万バレルだった。2017年には、生産量は9300万バレルに増加したが、従業員数は3分の2相当の14万6000人にまで減っている。世界有数の産油国であるナイジェリアでも事情はたいして変わらない。ナイジェリアの統計局によると、石油・ガス産業はナイジェリアの輸出収入の90%以上、政府収入の70%以上を占めていながら、従事者は労働人口のわずか0・01%にすぎない。つまり、効率化イノベーションによって増加したキャッシュフローが雇用の増加につながらないのだ。多くの場合、消滅が増加を上回っている。資源採取産業は根本的に効率性に牽引されるため、この産業に大きく依存するナイジェリアやベネズエラ、サウジアラビア、南アフリカ、カタールなどの国が、国民の雇用創出を期待することはできない。

 この点はきわめて重要だ。効率化イノベーションも持続型イノベーションも本質的に悪いことではなく、むしろ、経済にとって望ましい存在なのだが、持続可能な経済成長と雇用創出の点では両者の役割は異なっている。どちらも経済の競争力と活力を維持し、将来の投資に必要なキャッシュを増やすものの、成熟した市場では効率化イノベーションも持続型イノベーションも新しい成長エンジンの種蒔きはしない。市場創造型イノベーションとは、結果がまったく異なるのだ。

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