新規事業開発は「タッチポイント設計」から始めよ
ブランドビジョン策定の具体的手法の前に、なぜWILLの策定が重要なのかをおさらいしよう。
多様化の進んだ顧客はいまや容易にターゲティングできない。ユニークな顧客一人ひとりは、広範に分布し、かつ流動的で、さらに複数のクラスターに属している。いわば浮遊している状態だ。そのことにより、「プロダクトアウト」「マーケットイン」それぞれの手法が共に行き詰まりを見せている。
そのような状況でブレイクスルーになるのは「顧客との共創」である。共創は顧客とのタッチポイントで生まれる。しかし、従来型の事業開発には、商品・サービス開発に先だってタッチポイントから設計する発想はなかったと言える。WILLをベースにブランドビジョンから構築するブランド駆動型ビジネスとは、まさにそれに挑戦するものだ。
WILLとは、浮遊している多様な顧客を吸い付ける磁石の働きをするものとなる。この磁石が、商品・サービス開発に先立ってタッチポイントの設計(顧客接点の設計)を行うことを可能にする。新規事業開発においてWILLとブランドビジョンが強力なのはこの点だ。
現代において新たなビジネスを成功させるためには、企業が顧客の一人ひとりから、意志を持った「一個人」のように認識されなければならないと私は考えている。企業は主体性を持った存在にならなければ顧客との強い関係性を築けないのだ。本連載で繰り返すWILLの策定とは、企業の主体化のための有力な方法である。
以降、ブランドビジョンのつくりかたを具体的に紹介したい。クライアント企業に対して実施しているワークショップを踏襲し、誌面でも3つのステップを踏むのだが、今回は第1ステップであるPPOFという手法を解説する。