移動インフラの“コントロール役”が存在しない日本
──日本でも「Beyond MaaS」が成功する可能性はありそうですが、特定のプラットフォームが総取りするのではないかと懸念する声も多くありますね。
MaaS Tech Japan 代表取締役 日高洋祐氏(以下、敬称略):MaaSに事業機会を見出す企業の中には競合関係にあるプレイヤーが存在し、それぞれに多様な利害関係を持つ場合、連携が進まず出遅れる可能性はあります。
海外の多くの地域では「交通をコントロールする」役割が既に存在していて、たとえばオーストリアのウィーン交通局は、地域交通全体について監督し、調整しています。
しかし、日本の場合は都市部でも地方でも、行政が監督する部分も多くありますが、事業やサービスについては積極的に民間の市場原理に任せてきた側面があります。なので、日本ではモビリティ全体のバランスをとるような知見が蓄積されてにくく、その役割を経験した人もあまりいません。弊社でも交通分野、都市計画、テクノロジー、経営などそれぞれの分野の専門家を集めてプロジェクト組成していますが、その連携は一筋縄ではできません。
各MaaSプレイヤーでも不足するアセットを得ようと頑張っていますが、それでもバラバラでやっている限り、知見は蓄積されません。いかに組織をつくり、良質なプロジェクトを経験してノウハウを組織に残していくかが重要だと感じています。
たとえば東京都のモビリティ全体をコントロールすると想定してみましょう。官公庁でも都でも無理なら、鉄道、道路、自動車、タクシーなどの事業者のうち、どの事業者が主導するのか収拾がつかないでしょう。業界を越えて一つにまとまらずにいるうちに、海外から参入したプラットフォーマーが総取りしていくといった他産業で起きてきた懸念も、より現実のものとなってしまいます。
──利害関係の調整が進まず、全体がコントロールできないという状況を改善するのは難しそうですね。
日高:東京都のモビリティ全体をコントロールするのは、社会変革とも捉えられますね。社会変革というのは、始めから「新しい社会にしたい」と思って行うものではなく、社会課題があり切実になって、そこで初めて解決策がひねりだされるものだと思います。いかに一枚岩になって進められる魅力的な提案や課題を共有できるかが重要です。
また公共交通自体は人口減少や高齢化は進む社会の中では、ビジネスとしては昔より旨味があるものではありません。インバウンド需要で地方の公共交通も補助金などにより事業継続されてきましたが、既に起きている人口減少という要素にコロナの影響がプラスされ、ますます公共交通にとっては厳しい時代になります。
その結果、経営的に緩やかに統合するか、持っているアセットを出し合って調整し合う方向へ進まざるを得なくなります。今はお互いに切磋琢磨し競争しながらも、積極的に連携・共創していくことが求められる時代です。統合や協業の動きは既にあります。国の政策としても、今年から独占禁止法の特例除外が地方銀行の他に乗合バス事業者などに適応する動きもあります。