“ペナルティ”を用いた継続性の維持
インセンティブを設計するにあたっては、行動による効果が得られるまでの時間差、ターゲットに応じたインセンティブ量の変化、インセンティブの効能の時間的低減を踏まえて、インセンティブの強さ・種類を使い分けることが重要であることがわかりました。ここからは、継続性を維持する「ペナルティ」を用いた仕掛けについて考えていきます。
ペナルティの応用には、行動経済学で「損失回避」と呼ばれる、人間の認知の歪みが深く関係しています。論理的には同じ価値のものでも、それをゼロから失うときと得るときでは、人が感じる価値の大きさに違いが生じます。1万円を得る喜びと失う悲しみでは、後者の感情の方が2.5倍大きく感じるというのもこの一例です。これを素直に解釈すると、運動という行動変容を起こすためには、「運動したら1万円与えられる」よりも、「運動しなかったら1万円失う」方が効果があるということになります。これは、ダニエル・カーネマン氏によって体系化された行動経済学の中心的理論である「プロスペクト理論」の根幹を成す現象の一つです(図2)。