<ケア>を受けるロボット
開発者に対しては認定制度、TechFesという開発者向けのイベントやコミュニティ活動を推進している。こうした取り組みから、すでにかなり面白いものが出てきている。その一つの例として教育アプリの「ケア・レシーバー・ロボット」を紹介した。
これは「ケア・レシーバーロボット」、「トータル・フィジカル・レスポンス」という2つのポイントをいれたロボットです。 このケア・レシーバー・ロボットというのは、非常に重要な概念です。多くの人が、「ロボットが人に何をしてくれるのか」ということを考えますが、実をいうと「人がロボットに何が出来るのか」が大事なのです。 人に何かしてもらうのは嬉しいのですが、何かをしてあげることによる満足感は大きいのです。ペットにしても、ボランティアにしても、何かをしてあげるということから生まれるものがあります。
共生をするというのは、人とロボットが相互に頼りあうということです。自分ひとりで生きていくためには、他人から助けられるということが大事です。自立している人というのは、困ったときにいろんな人が助けてくれる。それこそが、ちゃんとした自立だという考え方があります。ロボットは人がいないとダメだし、人はロボットがいないとダメ。その共生がお互いの自立ということになるのかもしれません。
そういう意味で、ケアをレシーブするロボット、あえてロボット側が「何かをしてもらう」ことによって、人に貢献できることがあるのではないかというのが、教育ロボットの考え方です。 具体的には、英単語をロボットが子どもに教えるのではなく、子どもが教えてくれた英単語をロボットがまちがえる。その間違いを子供が指摘することによって、その経験を通して、子供はその英単語を覚える。そういう使われ方が、次のロボットの使われ方なんじゃないかなと思うのです。
それからブロック積み。ロボットに赤を青の下に置くというように指示するとロボットは一所懸命にやる。産業用ロボットなら、目にも止まらないスピードでやります。ところが、Pepperは手の構造からしても、早くも正確にもできない。このPepperの「頼りなさ」のおかげで、展示のブースは人だかりができました。失敗したら、「あー、」とか成功したら「よくやったね」とか、人がPepperを応援してくれるのです。 人がロボットを応援する時代をあらわす非常に面白いアプリケーションでした。
2匹のPepperがシンクロする世界
Pepperの前に行くと2種類の人がいます。ひとつは、Pepperに合わせようとしてくれる人。「もうひとつはロボットはどこまで出来るんだろう?」と思って、どんどんPepperに無理な質問を投げかける人。初対面の人間にとんでもない質問を投げかけることはしませんが、ロボットには平気で出来るのですね。それに対して答えられないと、「なんだ、ロボットはダメだな」と思う。その瞬間に「人が上でロボットが下」なんですね。それは1対1だからです。 これがロボットが2体になって、話しかける方が一人だと状況が変わってきます。話しかけて、片方のPepperが、「ん?聞き取れなかったよ」と言って、それに呼応してもう一匹が「うーん、そうだね。よくわかんなかったね」と、Pepper同士の会話が始まる。そうすると人間側がアウェイになるんですね。その場がPepperの場になり、人の方が申し訳ないという気になる。2体のPepperがシンクロしている世界に、僕らが紛れ込んだような不思議の国のアリスのような体験ができます。これはかなり衝撃的なアプリケーションでした。 こういったアプリケーションが、わずか一ヶ月でできてしまうのです。
最後に、林氏はPepperのアプリケーションの事例として、IBMの人工知能Watsonとの連携や、家電との連携、似顔絵描き、オリジナルの音楽づくり、楽器演奏、ヤフーの情報との連携などの事例を列挙した。これまで、ロボットをさわったことのないようなデザイナーのような人も、ロボットの分野であれば、何をやってもすべてが世界初になれるとエキサイトするという。Pepperが、多くの人のクリエイティビティを引き出してくれるということを示した。