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経営変革の「思想」と「実装」

経営変革における「センスメイキング」と「ケア」──新旧の価値観を接続するコーポレートの役割とは?

後編

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 前編で、確実に悪化しているにも関わらず変わることができない日本企業を“慢性疾患”状態と表現した宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授)に、それでも変革を可能にしていくための方法を伺った。氏によれば、経営者とCxOチーム、コーポレート、事業部門などそれぞれの立場に期待されるのは、「“正しいこと”ではなく“必要なこと”をする」というケアの姿勢だという。

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企業が「共進化ロックイン」を超え、新たな価値基準を構築するには

──企業が新規事業などの変革に継続的に取り組むには何が必要でしょうか。

宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):経営戦略論の研究者、ロバート・バーゲルマンの研究が参考になります。バーゲルマンは長らくインテルをリサーチしてきました。バーゲルマンが研究の中で気づいたことは、新しい事業が組織内で育つために何よりも必要なことは、様々な経営資源の配分が受けられるかどうかだとしています。また、新しい事業の芽は現場から生まれる、としています。しかし、現場から生まれるイノベーションに経営資源が適正に配分されることが難しい。では、どのようにするとイノベーションに経営資源が配分されるのか。組織内部の淘汰圧力と市場における外部淘汰圧力を一定にすること、そのために下の階層から上の階層への働きかけ、上の階層から下の階層への働きかけの双方が必要だとしています。

──そのインテルもパソコン用のCPUで大成功を収めたあと、その成功がゆえに苦境に追い込まれますね。

宇田川:Biz/Zineでは折に触れて紹介している「共進化ロックイン」ですね。共進化ロックインとは、既存戦略の慣性力によって、新しい事業が生み出されなくなる問題に悩まされる状態を指します。インテルは、パソコン用のCPUで成功した素晴らしい戦略により新しい変化に対応できず、自身で変化を創造できなくなりました。

 では「共進化ロックイン」にどのように対峙すればいいのか。バーゲルマンは「戦略的意図」と「現場の行動」の間の不協和、ギャップを受け止めることが重要である、と述べています。既存事業での成功パターンやその事業を成功させた戦略が「戦略的意図」だとすれば、新たな変化を察知する動きが「現場の行動」です。経営者を中心としたCxO組織やコーポレート部門、もしくはミドル層がそのギャップ、言い換えれば「認知的不協和」を調整することができるのではないでしょうか。

図版出典:共進化ロックイン coevolutionary lock-in(Burgelman,2002)

──ただ、新規事業も含めた新たな変化を察知する動きには、既存の組織の価値基準ではエビデンスがないために合理的に淘汰されてしまいますよね。何かその対策はあるのでしょうか。

宇田川:その点に関しては、「対話」という観点から考えることができます。経営層と現場のナラティヴが異なる、つまり、ものごとに対する解釈が異なるという前提で対話を行うことが重要です。これは以前Biz/Zineでもお話しした「2on2」という対話の方法(*1)が一つの手段になりえます。自分たちが今何に直面しているのかについて、他者の視点を交えて話すことで現場でセンスメイキングのプロセスを作動させ、何を行うべきかという具体的なアクションを発見していくことにつながる実践的な方法です。

 ただし、さきほどの疑問のように、現場からの活動のみでは資源配分が途絶えます。その際に、コーポレート部門やCxOチームが組織を横断して全社的に動いていくという「企業としてのセルフケア」を行うことが重要です。企業変革の実践とはイノベーションを推進し、同時に既存事業も変革していくということです。とりわけ、なかなか育ちにくい新規事業については、持続的に新規事業が出てくる状態をつくるための「ケア」が欠かせません。

 言い換えれば、教育学者ユーリア・エンゲストロームが提唱する「野火的活動(wildfire activities)」のような分散的に行われる非公式な活動と、会社の保守本流の世界とを共存させるインターフェースが必要だということです。このインターフェースをつくるという重要な任務を、コーポレート部門がリードして組織横断的に行っていかなければなりません。

*1:宇田川氏とリクルートマネジメントソリューションズが開発中の「2on2」対話プログラムについては「こちら」を参照 

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