事例1:『Personal Culture Patterns』
最初の事例は、井庭研究室の鎌田安里紗さんの学びのデザインの事例である。彼女は、井庭研究室の仲田未佳さん(このプロジェクトのリーダー)と、tomさん(イラストレーター)とともに、自分らしく生きていくためのパターン・ランゲージ『Personal Culture Patterns』を制作し、それを活かしたイベントを開催することに取り組んでいる。このパターン・ランゲージは、従来のような説明的な文章ではなく、感性に訴えかけるようなポエティックなスタイルで表現されている。このパターン・ランゲージにもとづいたイベントとして、2013年7月に代官山蔦屋書店で四角大輔さんと井庭崇による対談も企画・実施されている。このプロジェクトを通じての「つくることによる学び」のデザインについて、2013年4月の段階で鎌田安里紗さんが書いた文章を見てみよう。
今年度の自分のテーマは《突き抜ける》こと。「まあいいかな」というレベルで満足せず、こだわりを持って本当に自分が良いと思うものを生み出したい。そのためには、新しいことに挑戦することを恐れず、積極的に取り組んでいく必要がある。具体的には、『パーソナル・カルチャー・パターン』を完成させると同時に、イベントなどにも力を入れていく。このことは、《断固たる決意》を持ってやり抜きたい。そのため、研究に必要な知識を補うため、キャリア・デザインに関する授業を多く履修し、なおかつプロジェクトの時間をしっかり確保するために時間割を整理した。また、積極的に学会に参加したり、外部の人との関わりをつくったりすることによって、自らを追い込んでいる。環境は整えたため、あとは《創造への情熱》を絶やさぬよう、常に《自分で考える》ことを心がけたい。
また昨年度の反省点として、動く前に考えすぎてしまい、結局前に進んでいない自分がいた。そこで、今年度は《動きのなかで考える》ことを自分への課題に設定し、思い立ったらすぐに行動していこうと思う。動きながら自分に足りないもの・ことに敏感になり、それらを学び、補いながら成長していけるような行動力と実践力を身につけたい。
それに加えて、《魅せる力》も必要であると感じている。こんなにも《創造への情熱》を持って取り組むプロジェクトは正直初めてであるため、このプロジェクトの魅力と成果を多くの人に届けたいと心から思う。そのためには、ただプロジェクトを完成させるのではなく、人々を“魅せる”ための工夫を加えなくてはならない。研究成果を社会に活かすためにも、このことは常に頭に置いておきたい。
この具体例を見ると、「ラーニング・パターンを用いて自分の学びをデザインする」ということがどういうことかについて、理解できるのではないだろうか。ふつう何かのプロジェクトに取り組むときには、成果に向けた活動のデザインはするが、このような学びのデザインが行われることはまずない。しかし、「つくることによる学び」においては、プロジェクトの活動のデザインだけでなく、学びのデザインが本質的に重要になる。そのような意識をもつことなしに、効果的な学びは得られないからである。