連載・コラム 両手を使ったプロトタイピング思考

両手を使った“考えるためのプロトタイピング”をはじめよう

第1回

 デザイン思考が普及し、プロトタイピングについて知っている、実践したことがある人は10年前より格段に増えました。しかし一方で、「社内でプロトタイピングをしてもうまくいかない、やはりデザイナーでないと難しいものなのだろうか?」という声を聞くこともあります。大学院でデザイン工学を専攻して、現在デザインプロジェクトを推進している私も、以前はプロトタイピングに消極的で、その効果も感じられていませんでした。そんな私のプロトタイピングへの認識が180度変わった理由を、これから全3回で紹介していきたいと思います。今回はそもそもプロトタイピングは何のために行うのかを考えます。

[公開日]

[著] 加藤 夏来

[タグ] デザイン思考 プロトタイピング 事業開発

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プロトタイピングは何のために行うのか

 皆さまは、プロトタイピングは楽しいですか? 価値がある、そう思えますか?

 首を横に振る方や「うーん」と悩む方は、以前の私と同じような理由でプロトタイピングを好きになれない、価値を感じられていないだけかもしれません。以前は面倒で価値も分からなかったプロトタイピングですが、今では楽しく、とても効果的と感じるようになりました。日々のプロジェクトでも、クライアントと率先してプロトタイピングに取り組んでいます。

 では、そもそもプロトタイピングは何のために行うのでしょうか?

 プロトタイピングが好きではなかった以前の私は、「プロトタイピング=検証・改善のためのものづくり」と捉え、「完成品に仕上げるための慎重なプロセス」だと思っていました。つまり、すでに頭の中では構想ができているアイデアを完成品に作り上げていくプロセスで行うのがプロトタイピングで、緻密に検証と改善を繰り返すためのもの、という認識だったのです。もしタイムマシンで10年前の自分に会えたら、私はこう言うでしょう。「もっと気軽に、楽しく、自由にプロトタイピングをしたらいいんだよ」と。

 確かに、プロトタイピングの定義は、「検証・改善のためにアイデアを可視化すること」とされる場合があります。最終的な「完成品」を目指して検証と改善を重ねる、その手段として、アイデアを形にする「検証・改善のため」のプロトタイピングです。

 しかし、プロトタイピングの定義を「製造直前の製品の完成モデルを思い浮かべがちだが、その定義をプロセスのもっと初期まで拡大する必要がある」とも説明されること[1]があるように、デザイン思考におけるプロトタイピングは「検証・改善のためだけ」にとどまりません。そもそもデザイン思考は、「誰もがデザイナーのごとく思考する」ためのアプローチです。デザイナーではない人が「デザイナーのように発想する」ための方法ですので、プロトタイピングも「両手を使った思考(Thinking with your hands)[1]」と称され、「考えるため」のプロトタイピングという側面があるのです。


[1]:『デザイン思考が世界を変える イノベーションを導く新しい考え方 [アップデート版]』(ティム・ブラウン、早川書房、2019年)

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