既存の銀行の延長線上ではもはや戦えない
「みんなの銀行」は、ふくおかフィナンシャルグループが今年5月に設立した国内初のデジタルバンク。Fjord Tokyo、アクセンチュアはその設立に関して、伴走者としてプロジェクトに参画している。
リアル店舗を一切持たず、提供するあらゆる金融サービスがスマホだけで完結。BaaS(Bank as a Service)化を掲げ、従来の銀行業の枠を脱し、様々なパートナー企業とともに新たなエコシステムの構築を目指す。その革新性やデザイン性の高さが評価され、「グッドデザイン賞」「Red Dot Design Award」「Google Cloud カスタマー アワード」などを受賞した。
だが、外部のデザインディレクターとしてこのプロジェクトに参画した柳氏は「デザインアプローチとしては特別なことは何もしていない。広く知られた一般的なサービスデザインのプロセスを経て作られている」という。
では、みんなの銀行はなぜメガバンクに先駆けて大胆なトランジションに成功したのか。そのポイントは「どこまでも顧客中心に考え、そこに妥協をしていないこと」と、「企業とサービスを立体的にデザインしていくこと」の2つにあると柳氏は語る。
地銀である同グループから国内初のデジタルバンクが生まれた背景を、柳氏は次のように語った。
「現在では、『ムーアの法則』を超えた速度でテクノロジーが進化しており、その進化がビジネスにおけるイノベーションをドライブしています。小売ならAmazon、動画ならNetflix、宿泊ならAirbnb。あらゆる業界でテクノロジー主導のイノベーションが起きています。しかし、そうした他業界と比べて、金融業界の歩みは“牛歩”と呼ぶにふさわしいものでした」
金融取引は以前のような店頭への来店による対面中心から、インターネットバンキングによる非対面中心へと急速にシフトしている。Covid-19の影響もあり、その傾向はさらに加速している。しかし、銀行の提供する金融サービスは、法規制と従来のITシステムが重荷となり、なかなか進化が遂げられずにいた。
それに対して、デジタル時代の環境変化により、顧客の情報量やリテラシーは向上しており、既存の金融サービスとの間には大きなギャップが生まれてしまっていた。さらに、昨今ではフィンテック企業がディスラプターとして進出してきており、既存の銀行はいよいよそのあり方を問われる状況にあったと柳氏は言う。
「既存の銀行の延長上では、もはや真に金融を変えることはできない。これはもう、新しくゼロから銀行をつくる以外にない。こうして『銀行業』にしかできないことをデジタルで『再定義』して戦うことを決断するに至った」と経緯を明かした。