富士通は、スーパーコンピュータ「富岳」のCPU「A64FX」を搭載した「FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700(以下、PRIMEHPC FX700)」で構成するクラスタシステム上で36量子ビットの量子回路を扱うことができる量子コンピュータシミュレータ(以下、量子シミュレータ)を開発した。
この量子シミュレータは、量子シミュレータソフトウェア「Qulacs」を高速に並列分散実行可能にすることで、36量子ビットの量子演算において、他機関の主要な量子シミュレータの約2倍の性能を実現しており、数十年先の実用化が見込まれる量子コンピュータのアプリケーションを先行開発することが可能となるという。
これをうけて富士通は、富士フイルム様と共同で、材料分野における量子コンピュータアプリケーション(以下、量子アプリケーション)の研究を4月1日より開始すると発表した。
開発した量子シミュレータ
自社のスーパーコンピュータ「PRIMEHPC FX700」64ノードで構成したクラスタシステムで稼働する並列分散型の量子シミュレータを開発。「PRIMEHPC FX700」は、スーパーコンピュータ「富岳」のCPU「A64FX」を搭載しており、倍精度浮動小数点演算で理論ピーク性能3.072テラフロップス(以下、TFLOPS)の計算が可能となる。また、毎秒1,024ギガバイト(以下、GB)の広帯域なバンド幅を持つメモリを32GB搭載するとともに、各ノード間を「InfiniBand(インフィニバンド)」で接続することで、毎秒12.5GBの高速通信が可能となるという。
量子シミュレータソフトウェアには、大阪大学とQunaSysが開発した「Qulacs」を採用し、「A64FX」へ移植する際にSVE(Scalable Vector Extension)命令を活用して複数の計算を同時に実行することで、メモリバンド幅の性能を最大化している。また、MPI(Message Passing Interface)により、「Qulacs」を並列分散実行可能とし、計算と通信をオーバラップさせることでネットワーク帯域を最大限引き出すデータ転送を実現。さらに、クラスタ上の分散メモリに展開される量子ビットの状態情報を量子回路とその計算の進捗に合わせて適宜効率良く再配置する新たな方式を開発し、通信コストを削減したという。なお、この方式は「Qulacs」以外の量子シミュレータソフトウェアにも適用することができる。
この量子シミュレータを、量子コンピュータソフトウェア(以下、量子ソフトウェア)の主要な開発ツールの1つである「Qiskit」に対応させ、量子ソフトウェア開発者にとって利便性の高い開発環境も整備。加えて、QunaSysとの提携により、今後、量子シミュレータ上で同社が提供する量子化学計算ソフトウェア「Qamuy」を利用可能とすることで、多岐にわたる高速な量子化学計算の実現を目指すとしている。
富士フイルム様との共同研究
富士通は、富士フイルムと、革新的な材料設計手法の実現に向けて、計算化学領域における量子アプリケーションの共同研究を開始する。共同研究では、分子の化学反応計算などにおいて、本量子シミュレータを活用することで、量子コンピューティング特有のアルゴリズムの検討や評価を行う。