NEC独自の「事計」文化とFP&A組織への劇的な進化
池側千絵氏(以下、池側):NECは2025年度決算において売上収益3兆5,827億円、Non-GAAP営業利益3,972億円を達成し、利益率も2桁に到達するなど過去最高益を記録され、非常にダイナミックな再成長カーブを描いておられますね。
まずは、FP&A部門長を務める嘉田さんのこれまでの歩みと、NECにおける独自のファイナンス組織の成り立ちについてお聞かせください。
嘉田昌弘氏(以下、嘉田):私は1991年に入社して以来、生え抜きでファイナンス畑を歩んで36年目になります。R&D(研究開発)部門の経理からスタートし、生産子会社での原価計算、台湾子会社でのCFO機能の統括、と社会基盤企画本部長やセグメントCFOを経験し、2025年10月に現職であるFP&A部門長に着任しました。
NECのファイナンス組織の変遷を語る上で欠かせないのが、かつて社内で「事計(じけい)」と呼ばれていた独自の存在です。これは各ビジネスユニット(BU)の中に設置されていた「事業計画室」や「企画本部」などの管理組織を指す社内用語でした。そこでは単なるファイナンス(予算管理・計数管理)だけでなく、HR(人事)や総務までを一手に担う、強力なバックオフィス機能として活動していたのです。
2023年に誕生した現在のFP&A部門は、この伝統的な「事計」に所属して現場の数字を扱っていた管理会計のプロたち(約80%)と、コーポレートの経理財務部門から各事業部に派遣されていた財務会計寄りの人間(約20%)を組織内に統合し、CFO傘下の独立した組織として合体させたものになります。
1991年入社。R&D部門の経理を振り出しに、生産子会社での原価計算(通信装置・海底ケーブル用中継器等)、台湾子会社のCFOなどを歴任。社会基盤企画本部長、社会インフラFP&A統括部長を経て2025年10月より現職。客観的な規律と事業視点を両立させたファイナンス組織の統括と、グループ全体の経営高度化を牽引している。
個別最適のサイロを打破する、CFO直結の「ビジネスパートナー」への転換
池側:各事業部門がそれ自体で何千億円規模の売り上げを持つNECにおいて、現場に深く根付いていた「事計」の予算管理機能をコーポレート側に移行し、統合するというのは並大抵のことではなかったはずです。
岡田義朗氏(以下、岡田):私は1997年の入社以来、まさにその「事計」に在籍し、主にITサービスセグメントの民間企業向け部門の管理に約25年間携わってきました。当時は、隣の事業部が何をしているのか、どのような基幹システムを使っているのかさえ分からないほど、情報や業務プロセスが事業部ごとに個別最適化され、完全にサイロ化(寸断)されていました。
しかし、2023年にCFO直轄のガバナンス体制のもとでFP&A組織が集約され、全社横断的なレポーティングが始まってからは、自分たちの事業を「横並び」の共通言語で客観的に見ることができるようになりました。たとえば「自部門は前年度比で売上成長率(CAGR)5%だが、同じ組み立て製造業向けの他部門は10%伸びている。この差はなぜか?」という健全な問いや横のシナジーへの議論が、自然に生まれるようになったのです。
1997年入社。入社以来25年間にわたり、ITサービスセグメントにおける民間企業向け部門の「事計(事業計画)」機能に従事。現場に密着した予算管理、固有の業務プロセス構築を担う。2023年よりFP&A部門のディレクターを経験し、現在は改革グループにてファイナンス業務のDX・高度化、データドリブン経営環境の整備を推進している。
池側:人事権やレポートラインをグループCFOに直結させたわけですが、事業部側からの反発や抵抗はありませんでしたか。
嘉田:最初はやはり「なぜ自分たちの配下として動いていた組織を、コーポレートに持っていかれるのか」という強い抵抗が一部にはありました。メンバーシップ型の雇用が根強い日本企業において、自分の下に組織を置いて自由に囲い込みたいと思うのは自然な心理です。しかし、そこは森田CEOがCFO時代に確立した強いリーダーシップのもと、「経営の高度化と企業価値の最大化のためには、ファイナンス組織の独立性と客観的な規律が不可欠だ」というトップダウンの意志を貫き、段階的なトライアルを経て全員を動かしました。事業部門出身である藤川CFOもそのあと押しをしてくれました。
私たちFP&A組織が最も大切にしているのは、現場の「事業への愛着」を否定しないことです。「この事業が好きでNECに入った」という熱意は貫いてもらいつつ、その愛を「事業を真に成長・発展させる行動」へと接続してもらう。FP&Aが単なる数字の集計屋や監査役ではなく、事業を共に伸ばすための信頼できる「ビジネスパートナー(BP)」であることをこの3年間で愚直に証明し続けた結果、現在では所属の垣根を超えて自然体で協働できるマインドセットが定着しています。
