第2次ブーム到来。大学発スタートアップの現状と課題
かつて2000年代初頭、日本では「大学発ベンチャー1000社計画」が掲げられ、大学の研究成果を起業につなげる施策が推進されました。結果、1990年代末から2000年代前半にかけて大学発スタートアップの数は急増し、1996年度に130社程度だったものが2004年度には1,207社に達し[1]、目標は一見達成されたかに見えました。
しかし、その後ライブドア事件(2006年)などを契機にベンチャー全体への逆風が吹くと、この第1次ブームは下火になり、設立数は伸び悩みました。一方、第1次ブーム期には、起業後の経営人材、市場検証、成長資金の不足などにより、研究成果を持続可能な事業へ転換できない企業も存在しました。数の創出に比べ、起業後の成長支援や事業化支援が十分ではなかったことが、その後の課題として残りました。つまり、数の上では目標を達成したものの、質のともなわない起業も含まれていたのです。
それから十余年を経た現在、日本は第2次大学発スタートアップブームとも言うべき状況にあります。政府の後押しや研究現場の意識改革も相まって、2016年頃から再び大学発スタートアップの創出が活発化し、2017年度に2,000社、2021年度には3,000社を超えました。その後も増勢は続き、2023年度に4,288社、2024年度に5,074社となりました。さらに、経済産業省「令和7年度大学発ベンチャー実態等調査」では、2025年10月末時点で6,220社となり、前年から1,146社増加しています。
この背景には、政府によるスタートアップ支援策の充実があります。たとえば2012年度補正予算では、東北大学、東京大学、京都大学、大阪大学の4国立大学に計1,000億円を出資する「官民イノベーションプログラム」が措置され、各大学における投資事業会社や大学発ベンチャーファンドの整備が進みました。また、研究開発段階から事業育成を行う「大学発新産業創出プログラム(START)」(科学技術振興機構・JST)による事業化支援に加え、2023年度には「スタートアップ・エコシステム共創プログラム」で全国9つのプラットフォームが採択され、GAPファンドを通じた起業前後の支援が強化されました。
こうした制度的支援により、現在の第2次ブームでは、単に数を増やすだけでなく競争力の高いスタートアップを生み出すことが重視されるようになりました。もっとも、課題がすべて解決されたわけではありません。量が増えたとはいえ、大学発スタートアップの中には依然として研究偏重でマーケット感覚に乏しいものも存在します。
筆者は大学の研究シーズを事業化するためのプログラムメンターや客員として多数の経験がありますが、教授主導のスタートアップは技術力が卓越していても、市場ニーズの検証やビジネスモデル策定に不慣れなケースが多く見られました。こうした課題を補うため、最近では経営人材のマッチングが盛んです。経済産業省・NEDOの「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業(MPM)」では、VCなどが経営人材候補を発掘・育成し、大学の技術シーズや大学発スタートアップとマッチングする取り組みを支援しています。
たとえば、某大学発バイオベンチャーでは、元大手製薬企業のマネージャーが社長に就任し、研究者のチームと二人三脚で事業計画を練り上げている好例もあります。とはいえ、研究者サイドが経営をCxO人材に丸投げしてしまうと、経営側の技術理解が乏しい場合に事業推進が滞るケースも散見されるため、あくまで「二人三脚での推進」という意識が重要です。第2次ブームの今こそ、「産と学の人材融合」によって質の向上を図ることが求められています。
[1] 日本総合研究所「ディープテック・スタートアップへの期待と課題」
